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976.ラストバレル
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11 :
黛千尋
2015/10/28(水) 01:57
雨/51
大昔、飼ってた魚を死なせちまったことがある。
まあよくある種類の熱帯魚だったんだけどな。
オレは魚を食うのも見るのも好きで、子供の頃は水族館なんかに喜んで出向いていたそうだ。なにせ感情の発露の少ない無愛想なガキだったもんだから、親も子供のご機嫌を取れるものを発見できて安心したことだろう。
さてその熱帯魚だが、ひらひらした尾ビレや背びれが金魚にも似ていて、金魚よりは小さくて、赤かった。今でも覚えてるよ。結構中二な名前をつけちまったが、可愛くて大事に育ててた。
なんで死んじまったのかはわからない。寒さなのか、エサのやり過ぎか。環境が悪かったのか。とにかく世話をしてたのはオレだったからな。オレのせいであることは間違いない。水槽にぷっかり浮いてるそいつを見つけた朝は、涙も出なかった。まあ、よくある話だ。学校から帰って、生臭くなりかけているそいつをティッシュにくるんで、水草と一緒に庭に埋めた。
やっぱり涙は出なかった。大切に育ててたんだ、本当だぜ。
本当は赤色が好きだったんだが、なんとなく避けるようになった。色ってのは地味な方がいい。どうせ気付かれないんだ、何を着たって同じだしな。くすんだような、泥のような、雨の日みたいな泣きそうな空の色のほうが、何も連想しなくていい。
魚につけてたのは、王様の名前だった。ヨーロッパの王様が羽織るようなケープっていうのか?それくらいはっとするような、緋毛氈のような、文句のつけようのない綺麗な真紅だったんた。
昼飯にくさやを食ってたら、ふとそんなことを思い出した。
雨の匂いで、生臭かったのかもな。
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