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976.ラストバレル
 ┗12

12 :黛千尋
2015/10/29(木) 11:50

晴れ/50

シンデレラストーリーってのは存在するよな。

要はもともと実績のなかったやつが突然表舞台に躍り出て大活躍しちまうとか、とんでもない幸せを手に入れちまうっていう話だ。オレはその昔そんなもんは物語やテレビの中だけの話で、少なくとも自分の身の回りではそんなラッキーなやつはいやしないだろうと思っていた。シンデレラになるには王子様が一目惚れするくらいの容姿と性格を持っていたり、スポーツなら突然全国大会で優勝したりするくらいの才能と実力がなきゃいけないんだろ。もしくは実力の差を偶然の連続でなんとかしちまう強運とかな。そもそも、そういうストーリーに乗るためのチャンスすら平民には訪れやしないさ。
人間、自分の目にしたこと以外はなかなか信じられないものだしな。つまり、オレは自分が当事者になって初めて自分がシンデレラになることもあるんだなと実感したわけだ。今だって信じられないくらいだけどな。自分がシンデレラだと思った瞬間に、あまりのミスマッチ具合に吐き気と笑いが同時にこみ上げてくるくらいにはキラキラした単語で参ったんだが。

オレは洛山高校バスケ部において二軍の位置にいた。運動神経は悪くないしどのプレイもそつなくこなすが、ただそれだけの平々凡々な選手だ。二軍にいられたのは、一年の頃からそれなりに真面目に練習をこなして相応の進化を遂げただけだ。劇的なものは何一つない。
二軍上位組から見ると、一軍っていうのは「あともう一歩自分に何かがあれば届く位置」ではあるが、レギュラーともなると「何かとてつもないアドバンテージがある日突然降って湧かないと辿りつけない場所」だ。ただでさえ少ない五席だ。わざわざ洛山のバスケ部に入ろうってやつなら、目指さない方がおかしい。お気楽同好会ってわけじゃないからな。
何が言いたいかというと、1年時からレギュラーの座に鎮座ましましていた無冠の三人と、またまた1年時からレギュラーになっただけでは飽きたらずに部活自体を牛耳った我らが主将様を除くレギュラーメンバーってやつは、死に物狂いで激しい争奪戦に勝利してようやくその座を獲得しているということだ。最後に残った、たったひとつきりの席をな。

シンデレラストーリーの逆はなんていうんだろうな。

そいつは3年間努力して努力して努力して努力して、やっと認められて、あの豪勢なメンバーの横に並んでいた。はずだ。オレは別にそんな現場は見ちゃいないからこれは全部仮定の話だが。
で、それを。受験勉強があるからなんていう希薄でありがちな理由で部活を去った凡庸なプレーヤーに奪われるっていうのは、一体どういう気分だろうか。
オレはオレなりに想像してみた。
別に難しいこっちゃない。最低な気分になったよ。それこそ、自分の地位を奪ったヤツが駅のホームに立っていたら、その背中を押しそうになるくらいのな。

何でそんなことを今更考えたかって。
予備校に模試を受けにいったらそいつも会場に居たんだよ。

オレがそいつの受験の成功を祈ったなんてことをそいつが知ったら、きっとえらい目に遭うだろうからな。
気配を消して、見つからないように、小さくなっていた。

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