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976.ラストバレル
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14 :黛千尋
2015/11/05(木) 15:01

晴/48

ウワッ、ていう出来事があったし無駄に疲れたしおかげで合格が遠退いたような気さえしている。なんなんだよ東京モンは東京モンらしく東京で大人しく暮らしてろよ。いやアメリカ在住なのか。こんな目に合ったのも8割型オレの失態ではあるんだが。

さて、そいつは日本に一時帰国をしているらしく、久しぶりの日本だし京都観光でもしちゃおうかしらね、と母と妹を連れて悠々自適な旅行気分で、冬はクソ寒くて頭がおかしくなりそうなこの盆地を訪れたらしい。日本ではもともと東京住まいだったそうだ。そんなもんは聞かなくてもわかる。オレはバスケットコートを前にしたベンチで缶コーヒーを握り締めながら、さっさと帰りたくて仕方なかった。
こうなってしまった経緯はしょうもないもので、オレは受験勉強で煮詰まった頭をほぐすために少しだけ散歩に出ていた。通りがかりにバスケットコートがあったんで、ついプレイしてる奴を眺めたのはバスケ少年なら至極当然のことだろう。それに、コートを専有してこのクソ寒い中楽しそうにボールを操っている高校生は、やたらめったら上手かった。ひと目で全国レベルだと分かるくらいだ。
そして悲しいかな。オレはこんな日に限って学校に用事があり、勉強は図書館に缶詰めさせてもらっていたため、制服姿だった。あのやたらと目立つホストみたいなやつだ。オレは今でも洛山の制服が嫌いで仕方ない。
ストバスを満喫していらした少し目つきの悪い青年が、まさか洛山の制服を見知っていて、あまつコミュ力も高い帰国子女だなんて、オレに想像つくわけがない。ついでに言うと、気配を消していたオレに気付く能力があったのも大変な不幸だった。

何あんたバスケすんの洛山だよなその制服実はオレ洛山のバスケ部に知り合いが居るんだけどあんたもしかしてバスケ部だったりしてねえ?おおマジかちょっと話し聞かせてくれよあんたいくつ?マジか年上かコーヒー奢るよまあ座れって。

ああやだやだ。オレはここで断って帰るべきだったんだ。冒頭のベンチに戻る。

青年は名を虹村修造という。
随分ハッピーでサニーな名前じゃないか。通りで半袖短パンでこの時期生きていられるはずだ。10分も話さないうちに、オレはこの一つ年下のアメリカンな経歴を持つバスケ少年が帝光中バスケ部の元キャプテンで、洛山の一体誰と知り合いでどんな縁があるのかを知った。言っておくけど別に知りたくなかった。
となると話題は必然的に、10分前に出会ったオレたちの唯一の共通点に集中する。とても面倒くさかった。何だって「アイツすげえやつだけど抱え込むタイプだからさ」と年下に訳知り顔で語られなきゃならないんだろうか。そんなことはオレも知ってるよ修造くん。

そうかそうか。この少しヤンキー崩れみたいなノリの年上然とした(こいつはオレに対して一度も敬語を使わなかった)虹村先輩くんを、あやつはどうやらそれなりに慕っていたらしい。へー。

三十分後、あいつによろしくな、という爽やかなセリフを添えて修造くんは去って行った。お母様がお迎えにあがったのさ。東京へ帰れ!ちがうか、アメリカか。ゴーホームナウ!二度と来るな!お父様は大切にしろ。

ここまででもオレは精神をかなりすり減らしていた。だが極めつけはこれだ。
悲しいかな。

修造くんのメアドをゲットしてしまったのだった。

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