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976.ラストバレル
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18 :
黛千尋
2015/11/24(火) 14:04
雪/44
センター試験だった。
早いものでな。ついこの間まで汗臭い体育館の床を鳴らしながら吐きまくって玉突きをしていたというのに、粛々とした大教室の中、オレは頭と手だけをフル稼働させて、全国の学生諸君をふるい落とすために作られたトリッキーな問題を解いていた。これが2日連チャンだ。WCとどっちが堪えるかと言うと、甲乙つけがたいものがある。
試験終了時刻と同時に心配性の母上様からご一報が届いた。無視をするとその後が面倒なことは重々承知していたんで、例年通り雪で白く染まった道を歩きながら、おそらく問題ない得点を獲得できたであろう旨を伝えた。事実だ。手応えがあった。ママ上殿はここにきてようやくほっとした様子で、オレをほめた。そして2次試験まで気を抜くなと言い添えた。そうだな。自己採点したら早々に出願するとも。
オレもこの日ばかりは参考書に心の中で「オレたち少しだけ距離を置かないか」と告げて、既に薄暗い中、駅に向かった。
かつてオレをして「賢いな」とほめたヤツがいる。ヤツはオレが無事志望校に合格したら、ほめるんだろうか。そんなことを考えた。多分、予想以上に問題を解けたことが、オレを浮足立たせていたんだろう。それは同時に、オレがほめられたいと思っている証左でしかなかった。
別に認められたいとか、ほめられたいとか、期待されたいとか、これまで考えたことはあまりなかった。そんなもので動いたところで、どうなるっていうんだ。オレは動機として、そういったものが大嫌いだった。だってそうだろ。オレ自身が誰にも期待しちゃいないんだ。それを他人に求めるというのは酷だ。自分がやりたいからやる、そういうシンプルな考えが一番好きだった。誰に言い訳しなくてもいい。誰に決めてもらわなくてもいい。
まあそんなのは建前でしかないんだが。つまりオレはただのひねくれ者だ。天邪鬼であって、自己防衛がいきすぎたクソコミュ症だ。
当たり前だろう。自分のことを認めてもらえるっていうのは、自分のことを見てもらえるっていうのは、掛け値無しに気持ちがいい。知ってるさそんなこと。
あいつはつまり、そういう人心掌握術に長けていたのだ。
あいつはとにかく、オレをよくほめた。オレを道具扱いするその時までも。
気づくと知らない駅を降りていた。暗すぎて町並みなんか見えやしない。これは下手をすると帰れなくなる。構わないさ。
明日からは赤い表紙の本がオレの真の恋人だ。少しくらいマリッジブルーに浸ったっていいだろう。
しかし寒いな。雪なんか、みんな溶けちまえよ。
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