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976.ラストバレル
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19 :黛千尋
2015/11/25(水) 02:13

雪/43

その日も雪はしんしんと降り続いていた。今年一番の大雪になるそうだ。こんな静かな日だが、オレの人生の中ではそれなりに大きな出来事が起きてしまった。修造くんにもメールしてしまった程だ。別にもったいぶる気はない。告られたのである。どうやらアレがロマンスのフラグだったらしい。誰が信じるっていうんだよ。

オレのような身長とそこそこのビジュアルしか取り柄がないような男にわざわざと思いを寄せる女にろくなのがいないのは経験上よく知っている。なにぶん彼女らは見栄えがよろしいのだ。オレにはもったいねえよ。打算というのは嫌いじゃないけどな。
そういえばそのクラスメイトとは何かの折にラインを交換していたんだった。うっかりしっかり忘れていた。オレが部活に追われて誰かと交友を深めるどころでなかったのは彼女も重々承知だ。そんなオレが良かったのだという。へえ。実はオレは4月に部活を自主引退しようとしていたんだが、そんな些事は彼女の知ったこっちゃない。コンビニでオレの髪を実は褒めてくれていたらしい愛らしい彼女の中で、オレは三年で念願だったバスケ部レギュラーに上り詰め、規格外のプレイで洛山をWC準優勝まで導いたスーパーヒーローよろしく輝いているらしい。よくオレの隣にいた赤髪を無視できたなこの子。尊敬するよ。

さて。
オレが赤い表紙の厚い本とよろしくやっているのを中断させてまで彼女がオレを校舎裏に呼び出した理由は一つっきゃない。彼女はセンター入試一本をお選びだからさ。ご都合主義だよな。
修造くんにメールした内容はこうだ。「やべえ告られた」。我ながら陳腐だよな。かくして修造くんはこう返してくださった。「うぇーい!」。大学生か。クソほどの役にも立たんやつだ。

まあオレが修造くんにメールする頃、かわいそうに彼女は多分、少しくらいは家で泣いてしまっていた(んだと思いたい)。
オレは一つ学んだよ。女子を前にするとオレでもあんなに優しそうな声が出るんだってな。男ってやつは本当にしょうもない。

オレが彼女に告げる言葉を考えついたのは悲しくも彼女がオレのバスケ部での活躍を並べ始めた頃だった。
馬鹿野郎め。リア充になれる千載一遇のチャンスだったというのに、不意にしやがって。

かわいかったなあ。
ああ。やる気がなくなっちまった。

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