スレ一覧
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976.ラストバレル
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36 :
黛千尋
2016/02/01(月) 00:21
晴れ/26
昨夜の夜に来たメールによれば、虹村君は一週間くらいは日本に滞在しているらしかった。滋賀の親戚の家の世話になっているそうだ。滋賀とはまた微妙な距離感だが、致し方ないのだろう。
「オレなんかわりーことしたっけ?大丈夫?」という修造君からのメールの文面を見詰めて、結局返信せずに朝が来てしまった。全く自らに非のない人間というのは時に残酷だと思う。何も悪くないと思うのなら、平然としていればいいのだ。ただそれだけで、後ろめたいところのある人間は打ちのめされるんだからな。
PCを立ち上げて、特にもやる気もなくOC用のソフトを弄った。オレはPCが好きだが、それは何もオレの人間嫌いとは全く関係がない。よく、ラノベじゃ機械は人間と違って真っ直ぐで純粋だからいい、というアンドロイド崇拝のようなことが語られるが、オレはそうは思わない。機械のバグに振り回される人間はそれなりに滑稽だ。人間ならば多少ハートが傷ついたところで適当に稼働してくれるが、デリケートなPCはマザーボードに少し触れると途端に全てをシャットダウンしてしまうこともあるんだからな。
第一機械に感情などあるものか。ラノベじゃあるまいし。
修造君との待ち合わせ場所は、いつかオレが通りがかり初めて彼と出会ったバスケットコートだった。それにしても、なぜどいつもこいつもオレを受験勉強の息抜きに連れ出したがるのだろう。確かに休息は大切だし、1時間やそこら休めて受験に失敗する頭なら最初から大学など目指さなければいいとすら思うが、少しはオレをそっとしておいてくれないものか。なんだかんだと、奴以外の何かに流されてしまっている気がした。
バスケットコートですることなど1つしかない。
オレは実に一ヶ月とちょっとぶりにバスケットボールを手にして、昨日は腹が痛くなってクソをしに行ったのだというオレの嘘八百をまんまと信じた修造君と対面していた。
修造君は中学の頃の誉れ高い呼び名に反して、特に剛力というわけでもなければ、ずば抜けた高身長というわけでもなかった。ともすればオレよりも少し低く、肉付きはいいがオレから見ても細身の部類だ。こういう奴は、大抵バスケセンスがいい。
1on1なんて本当に久しぶりだ。こういう形で、中学最強のPFと謳われた相手と戦うことになるなんて、微塵も想像していなかった。オレだってPFの端くれだからな。それなりに興奮はするさ。
言うまでもなくオレの武器はパスだ。ミドルシュートが得意ではあるが、別段突出した特徴があるわけでもない。つまり、1on1でオレに修造君に勝てる道理は、どこにもなかった。
それでも、オレなりにそこそこいい勝負はできたつもりだった。修造君はアメリカのストバスで身につけたらしいトリッキーな動きが多かったが、毎日バスケ漬けとまではいかない状態らしく、曰く「中学時代のが強かったオレは」だそうだ。
明日の筋肉痛だけが心配だ。
日が暮れる前に、修造君にはお帰りいただくことにした。もちろんオレにしては相当丁寧に礼はしたさ。たまには身体を動かしたかったのは本当だからな。
帰りしな、オレは修造君に聞いた。おまえは嫉妬をすることはあるのか、と。
「あるよ」
短い返答は、それが浅からぬものであることをオレに伝えていた。
まあでも、バスケは5人でやるもんだからな。修造君はこうも付け加えた。ごもっともだ。一人だけが強くても、バスケは意味がない。意味があってはならない。
修造君は、さらにこう続ける。
「あいつの隣、しんどかったろ」
オレは、肯定も否定もしなかった。
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