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976.ラストバレル
 ┗45

45 :黛千尋
2016/04/15(金) 15:47

晴れ/17

結局喫茶店の女が尻をどうされたのかはわからずじまいのままだ。もやもやする。

そんなことはともかく、オレは寮室のベッドの上に居座るオネエの気配を隣に感じながら、あいも変わらず黙々と勉強をし続けていた。受験生だぞ。勉強以外にすることなどあるものか。告白イベントもスルーしちまったしな。

なぜ実渕がいるのかなど知らない。名目上は、「調理実習でクッキー作りすぎちゃったの、おすそ分けするわ」ということだった。そんなはずがあるものか。ヤツが常につるんでいる葉山小太郎と根武谷永吉は、そんな食料の匂いを嗅ぎつけたら余すことなく平らげてしまうはずだった。
つまり、オレに用事があるのだ。それをすぐには口にできない程度には重要なことらしい。

過去問を1回分終了させて、いつの間にか持ち込んだらしい紅茶なぞを啜っている実渕を一度横目で見た。黙っていれば美青年だ。黙っていれば。
次の問題にとりかかりながら、オレはあらぬことを口にした。オレの口は、思考と直結しているんだか乖離しているんだか、これでも10年と数年そこそこは生きているんだが、全くわからない。おまえ、好みのタイプってどんななんだ。と。そんな高校生のようなことを言ってしまった。

「可愛い子は好きよ?性格なら、面倒臭いコが好きかしら」

意外にも実渕はしれっと答えた。オレに持ってきたはずのクッキーが砕ける音がする。おい、残しておけよ。
面倒臭いといってもいろいろある。オレは脳裏に真っ先に浮かんだ人物を打ち消した。

「あなただって、振り回されるの大好きでしょう?」

実渕と目が合った。睫毛がこれでもかと主張する両の目が、猫のように細まっていた。綺麗だと思う。オレはどんな表情をしていたのだか知らない。別に意識していなかったから、無表情だったんだろう。実渕はすぐにつまらなさそうに目を逸らした。

あの詩集、読み終わったのか。
途中で飽きちゃったの。

そんな言葉を二、三交わして、やがて実渕は部屋を後にした。

何しに来たんだよ。
オレの口調にはやや苛立ちが入り混じっていたんだろう。実渕は肩を竦めて、テーブルに数枚残っているクッキーを指差した。

「食べてくださいね」

舌打ちをした。
後輩ぶんじゃねえよ。

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