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976.ラストバレル
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6 :黛千尋
2015/10/16(金) 01:25

晴れ/56

近所のスーパーの惣菜コーナーで買った簡易すぎる昼飯を食べているとき、母さんから電話がかかってきた。この人はなんだってこうタイミングが悪いんだろうな。トイレに入った直後とか、洗いものしてる時とか、ちょっと今日はドライアイスでPC冷却しちゃおうかなとか張り切ってセッティング完了した直後とか、そういうどうしようもないタイミングで連絡を寄越す。今日はマシな方だった。
連絡の中身は大したことなくて、身体の健康状態とおつむの成長具合、ついでに模試の結果やら志望校の判定やら、受験日程やら志望校の確認やら、とにかく受験について根掘り葉掘り事情聴取された。何だ今更、そんなに躍起にならなくたってオレは相変わらず机とニコイチの仲だし、もう部活だって無事引退してるんだし、一人息子を心配するのはわかるが、府内一の進学校にそれなりの成績を維持して通い続けた実績の一つも加味して今は放っておいてくれてもいいんじゃないか。この電話の十五分の間に、応用問題5問は解けたぜ。いや、昼飯食おうとしてたけどな。ツナサラダをな。

母さんとしては、オレが三年の頭にさっさと部活を辞めたのは懸命な判断だと思っていたらしい。そんなオレが舌の根の乾かぬうちにまた部活に復帰、しかも一軍レギュラーとして、と聞いた時は多分10回くらい「なんでなの」と言っていた。そんなのはオレが一番聞きたかったんだよ、おふくろさん。

なんでなんだろうな。

あのまま残り一年を他の奴らがそうするみたいに受験勉強に費やせば、今こうやって缶詰めになる必要はなかったかもしれない。その代わり、部活の間中こってり絞られて帰って死にそうになりながら研究用のDVDを暗闇の中で見て黒子テツヤのプレイを頭に叩き込むことも、泥のように眠って翌日筋肉痛で動けなくなることも、パスが面白いように通る気持ちよさを味わうことも生涯なかっただろう。

オレがあいつに向けて放った一線がその手に届き、そのままゴールへと吸い込まれる美しい瞬間を見ることも。

だからこそ、オレは絶対に受験を失敗することは許されなかった。まあ、留年したって何だかんだと許される自信もなくはなかったが、それはオレが許せなかったからな。部活にかまけたせいで落第する自分を好きになるのは割と苦痛だ。

がんばるのよ千尋。スマホ越しにずっと変わらない親の声が締めくくった。気のない返事をした。ほんとにがんばらなきゃダメよ。ね。と念押しされる。ほんと、この母親のこういうとこは苦手だ。オレのことをそれなりに愛してはいても、信頼はしていない言葉遣いだ。

まあ、いいけどな今更。

バスケがしたかった。

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