昔の話。相手の中に自分を残したくないと言いながら俺の前から去った奴が居た。何かを見て自分を思い出すようになってほしくなかったらしい。そいつはどんどんと個人的な話をしなくなり、最後には毎日「調子はどうだ？」なんて表面を撫でるだけの中身の無い会話ばかりになった。
ただ、思い出しただけ。眉を生やしたような風貌の小型犬が飼い主に連れられて歩いている風景を見て、ふと。お前の願いは叶わなかったんだよ。俺が脳を患うまできっと思い出す。今までも、これからも。

やりたいことが山ほどある。

タイトルの次に表紙の装飾が苦手だ。音楽が不得意なのは百も承知で、美術もさして優秀な成績を収められた試しが無い。芸術方面にとことん暗いんだろう。いつか委員会活動で写真を提出した際に「日吉の写真は通夜のような雰囲気を醸し出している」と指摘されたことがあるんだが、果たしてそれも美的センスのせいにして良いものか。

だが、やらずに嘆くのはもっと嫌いだ。

浮き足立つ。感覚が未だに思い出せないでいる。寝て夜中に起きてまた寝て、朝稽古に繰り出す日々。気に掛けて目が覚めてしまう時点でどうかしているな。
新学期に突入した。気を引き締め直さねえと。

背伸びしたところで今の俺では届きやしないし、つまらない見栄は張りたくない。だが、踵を浮かせずに背筋を伸ばすことくらいなら許されるだろうか。いずれは認めさせてやる、絶対に。