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3462.歌詠み兎
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吉良イヅル
2020/05/31(日)20:55:59
此処に来たのは本当に偶然だった。
初めて訪れる場所、人気で賑わう部屋。
今まで経験したことがなくて、最初の一歩を踏み出すのに酷く勇気が要ったことを覚えている。
眠れない夜の時間を潰せれば、他愛のないことを誰かと話せたら。
深い繋がりはかけがえのないものだろうけど、今の僕には荷が重すぎるから。
そんな思いで控室の扉をくぐっていた。
当初の願いは簡単に遂げられた。
日常のあれこれ、想い人への惚気や想い。そういったものを聞くだけで何故だか僕の心は満たされ、穏やかな気持ちで眠りに就くことができた。
僕は主役でなくていい。誰かの物語の彩として添えられる、一度きりの脇役でいいから。
ここに立ち寄る人々の物語に触れるだけで楽しかった。
でも、あなたに出逢ってしまった。
大袈裟かもしれないけれど、雷に打たれた心地がした。
なんて素敵な人なんだろう。ただただ憧れた。僕もそんな風に言葉を紡ぎたいと思った。
最初は本当に、尊敬の念でいっぱいだった。
それなのに。
傍にいたいと願ってしまった。僅かでもいい、あなたの支えになりたいと。
酷く陳腐で、自分でも笑ってしまうね。でも、あの時確かに僕は恋に落ちていたんだ。
淡い気持ちが心の中に芽生えた、水無月の夜。
2020.06.05
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