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3189.バンディエラtre
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り/ょ/う(東/海/オ/ン/エ/ア)
2022/08/29(月) 19:22
東京での仕事を終わらせて、僕はすぐに名古屋方面行きの新幹線チケットをネット購入した。家に到着するのは深夜になる見込みだったが、それでもその一晩を東京で過ごす余裕は僕には無かった。
てつやに会いたい。
僕の心はそれでいっぱいだった。
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岡崎に到着するといつもの場所に、バカのように目立つ車が停車している。i8、てつやの愛車だ。それなりに荷物があるというのにちっとも物が積めないこの車でてつやが迎えに来るのには、複数の理由がある。その理由を思い出して僕は既にマスクの下で口角を上げながら開いた扉から助手席に乗り込んだ。
「ただいま」
「おけーり」
てつやの声を聞いて、僕は自分が『てつやの頬にキスの一つでもしたいぐらい舞い上がっている』ことに気付いた。疲れただとか、ようやくだとか、様々な要因でらしくない自分がここに乗車している。それを"らしくない"等と言うのは多分自分だけなんだろうけど。
迷いなく理性を取り出して僕は前を向き、シートベルトを付けて深く座り直した。もう何千と車に乗ってきた僕達にはそういう小さな動きが出発の合図であることは無意識レベルで根付いている。だから僕も車が発進するつもりで、踏み出しの時のGがかかる前提を持って背もたれに体を押し付けた。
が、車は発進しない。
ん?と思うと同時に、誰にも見えない下ろした所で、てつやの手が僕の手を握ってきた。
それは、有難くも岡崎で有名になってしまったこの僕達が、岡崎駅の隅っこでギリギリやり遂げられる最高最大の正しいキスだ。そういう思考を向けたり感知するようになって、僕もてつやも大人になったものである。いや、むしろこんな事くらいで瞼を落として笑ってしまっているのだから、まだまだガキとも言えるのか。それは恥ずかしくもあり、嬉しくもある。
てつやの手をむにむにと何度か握り直して、最後にぎゅーーっと握ってから僕はてつやの手を離した。
それは僕達だけの出発の合図であり、僕達だけの口付けだ。
窓の外に流れる岡崎の街が愛しい。
帰ったら何から話そう。
ああまた、てつやが好きだということから、話し始めてしまうかもしれない。
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