刃生行路(〆)

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┗189.刃生行路(〆)(6-10/78)

10 :三／日／月／宗／近(刀／剣／乱／舞)
2018/05/30(水) 23:16

#乾杯の勢いでグラスを割った話

今日は本丸の祝い事があった。皆で腹一杯美味いものを食べ、美味い酒と茶とジュースを飲み、思出話に花を咲かせ、先程まで煩いくらいに盛り上がっていた。今はもう静かだが、誰かしらはまだ呑んでいるのだろう。

刀としては長く在る我らも人の子の様に見るならふたつみっつ、至らぬ点も学ばねばならん事もまだまだ山程あるだろうと思っている。
髪は伸びずとも、爪は伸びずとも、成長は出来るものだ。
千年を生きた俺とて。

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9 :三／日／月／宗／近(刀／剣／乱／舞)
2018/05/29(火) 20:52

#後から長兄刀に土下座を食らった話

先日のこと。何をやらかしたかは知らんが包丁が廊下で正座させられており、それがどうにも寂しそうに見えたもので俺も隣へ行って一緒に正座する事にした。
俺が見た時点で恐らく四半刻は座っていたんだろう、足の痺れに耐える顔がとても苦しそうで、大丈夫かと声を掛けたら足がサイダーになってると返ってきた。足がサイダー。
成程、足がサイダーになってしまったか。
正直、俺はとても感動してしまった。足の痺れを炭酸に例えると言うのは面白い、分かるぞ、と言う気持ちにもなる。
あの、血の走るような、沸き立つような、ごうごうどくどくじんじんとした感覚をサイダーと言う。面白い。

あれは何に似ているだとか、これはこう見えるだとか、この感覚はあれに近いだとか、こういったものが俺はとても好きだ。聞くだけでその相手の目を通し肌を通し物事を感じられている気がする。
俺は包丁になれんが、包丁の感じた足の痺れがどんなものかは少し理解出来て、それは彼の感覚を共有できた貴重な経験だ。他の刀達の感覚も共に感じられたら素敵ではなかろうか。

それが良くとも悪くとも、俺は分かりたいと思うのだ。

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8 :三／日／月／宗／近(刀／剣／乱／舞)
2018/05/28(月) 01:39

#揃っているように見えて揃わない話

俺が好意を抱いているからと言って相手も同じとは限らず、俺が好物だからと言って他の者も同じとは限らず、逆に俺が食えずともそれを好物とする者はおり、俺に出来ない事を得意とする者もいる。鋼であれ肉の身であれ、全てが全て一致する者はなく揃う事もないのだ。
同じ刀でも個性と言うものが確かにあり、俺は俺と全く同じ俺を知らない。
鋼を同じくする己らでもそうなのだから鋼が違い父が違い主も違えば揃う訳などある筈もなく、互いに想い合う仲であれ気遣い合う仲であれ、それがどんなに気の合う似た者同士と呼ばれる者でも噛み合わん箇所は出てくる。

だが、分かっていても期待をするのが心なのだろう。
俺が特別に思う事、したかった事、しかしそれが相手には重きを置く程ではなかった。
それは詮のない事実であり、ゆえに落ち込む必要はない。
と、思いはしても寂しくなるから厄介なものだ。

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7 :三／日／月／宗／近(刀／剣／乱／舞)
2018/05/24(木) 18:06

#瑣末と笑うそれこそ美しき

たとえば雨の上がった夕暮れ、こんじきの空。
日課の手習いにて、払いの出来のよさ。
手伝いに入った厨で、ひとつの係りを任されること。
言葉に出す前に差し出された欲しいもの、
それを手にした相手の誇らしげな笑み。

日々、美しきことと幸せに囲まれている。

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6 :三／日／月／宗／近(刀／剣／乱／舞)
2018/05/20(日) 02:48

#本丸と言うからには俺以外の刀も多く在る訳で

今日は非番の者が多かった事もあり、部屋替えを行った。演練で聞いた話では部屋替えをする本丸はあまりないようだが、俺達の所では定期的に開催されている。まぁ、一種のイベントだな。だがこれが始まったのはどうやら最近の話らしく、短刀、脇差、打刀ばかりの頃は部屋は固定であったようだ。
愛染によれば刀が増えるにつれ交流の偏りが生まれ、主と初期刀殿が部隊編成に頭を悩ませる事も増えたらしい。日頃関わりが薄く互いをよく知らぬ者同士の編成では連携に穴が空きやすく、遠征であれ出陣であれ結果が芳しくなかったのだと言う。確かに共に並び立って戦うには出来るだけ相手を知りたいように思う、性格や考え方、戦い方、癖は互いを補い合うのに恐らく必要な事だ。
そうして刀種、刀派の異なる者同士でも互いを知る機会を増やすべく部屋替えが企画されたのだが、これがとにかく当たりであったようで戦績は徐々に向上したのだとか(因みに部屋は二振りから四振りで使うようになっている)

さて、俺の相棒は今日から御手杵だ。近々晩酌にでも誘ってみようかと思う。

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