あの子は、僕の帰国に合わせて それはそれはスケジュールを詰め込もうとする。 それこそ分刻みに、 あと何分で支度をして出れば何時にどこそこのお店へ着くだとか。 それから一時間ほど店内を見て、そこから歩いて数分の別のお店へ。 夕食は何時に予約を入れている。レストランの名前は――。 #「ほな、そろそろ出よか。」 「……。」 影片が身体を起こす動きに合わせてベッドの沈みかたが変わる。 #「お師さぁん?間に合わなくなってまうよぉ。」 「……。」 #「擽ったい!育ちえぇのにいたずらっ子なあんよやね~。 #どないしたん~?ご機嫌ななめさん?」 「……。」 ふっと目の前が翳る。きらきら光る星と青空が落ちてくる。 同じ場所にふたり分の重みが掛かって、先程よりもベッドが沈んだ。 「……あのね。」 「…………その、べつに大したことではないのだけど……。」 #「どないしたん?」 「……お店、行く時間なくなってしまったね。」 #「んあ?あぁ、べつにえぇんよ~。 #夜ごはんのお店は予約しとるけど、 #それだってまだまだゆっくりしても間に合うし。」 「……君とはなかなか会えないし、 行きたい場所にはなるべく付き合いたいのだけど……。」 #「ほんまにそんな気にせんでえぇんよ。 #気分とか、疲れとるとかあるやろし。」 「そういう理由ではなくて……。」 #「なくて?」 「まぁ……その……何となくぐずっていたのは 多分、そういうことなのだろうと思ってね。」 #「もっとしたかったってこと!」 「ノンッ!違う!」 #「ちゃうの……。」 「僕が言っているのは、 ふたりきりの時間を大事にしたかったということ!」 #「!!」 「こらっ!擦り寄ってくるんじゃない!」 どうしてこの男は詩的表現を汲むこともできないのだろうね。 僕らの距離は、飛行機に乗れば縮められる。一生会えないわけではない。 それでも、共に居ない時間のほうが長いから。 それに、衆目を集める職種だからね。 外で同じように身を寄せあって歩くわけにもいかないのだし。 #「嬉しい~。」 「……何が。」 #「お師さんがふたりきりの時間をたいせつにしたいて思ってくれたこと。」 「……浮かれているね。」 #「んふふ~。」 |