鉄製のドアノッカーが重たい扉を叩く。 お待ちかねのお客様だね。 さぁ!丁重に出迎えようじゃないか! ようこそ、我が館へ。 おや、随分と冷えてしまったようだね。 迷いの森に惑わされたのだろう。 一体どれだけの時間をあの森で? あぁ……あぁ、 それは不安だっただろう、 恐ろしかっただろう。 もう何も心配は要らないのだよ。 ――影片!暖炉の火を強くして。 どうぞ、 今温かいものも用意しよう。 ……影片?そう人様の顔を覗くものではないよ。 『Coucou!』……?君、君ね、 君のそのなりでそう話し掛けては…… ほら、御客人が戸惑っているじゃないか。 失礼、彼は少し……ほんのすこぉし 頭のパーツが欠けていてね。 怖がらなくとも危害を加えたりはしないから。 彼の非礼をこのもてなしで償わせておくれ。 どうか……。 | 影片!!先ほどのあれは何かね! 折角の客人を追い出すような真似をして……! こら、意味のなっていない言葉を発するな。 君の誤魔化しは僕には通じないのだよっ! その立派な身体で幼児語を話すんじゃない。 不気味だ。 ノンッ!べらべらと調子外れの音で 話し掛け続けるのも駄目っ! ……まぁ、ね。もうここには僕らしか居ないから好きに話しても良いけれど。 ……矢張り君を直すときに 唇まで縫ってしまえば良かったね。 好きだ大好きだとばかり繰り返すのだもの。 まるで壊れたオルゴールだ。 もう少し美しい詩を紡げないものかね……。 今度頭の中を詰めなおすときには お気に入りの詩集を入れようか。 そうすれば 少しは好ましい詩を紡いでくれるだろう。 けれども情熱を宿したその瞳は悪くないね。 ずっと見つめていたくなるのだよ。 おいで、影片。 その目をよく見せて。この夜が終わるまで。 |