此処には何も書かない

# 極楽教ツツヌケ噺

〝昨晩夢を見た〟って信者から良く聞く言葉だけどさ。……あぁ〜、時々人間がとても羨ましくなるぜ。夢なんてもう百年以上見てない。夢ってどんな感じだったっけ？あたたかい？きもちいい？俺も一度は言ってみたいもんだ…〝はぁはぁ夢に出てきた君のことを想って粗相しちゃった〟って。あはは！絶対楽しいなぁ。ワクワクするなぁ。ドキドキするなぁ……君は好きじゃないみたいだけど、人間の真似事ってやっぱり面白いよね。こうして帳面をつけることも謂わば人間の嗜み。この時代この世界を生きているという充足の備忘録。経年を伴って誰かの手に渡り歩くなら、俺は神に誓って君との恋愛は真実でしたって書き綴るぜ。───寝た振りはできても眠ることはできないから必然的に夢も見れないが、夢を見た振りして君を困らせたら俺は感情を手に入れることができるんじゃない？あれ、これってもしかして名案だったりするかい？うんうん、早速試してみよう！夢夢夢、夢…。

　一枚、白紙を挟んどきましょうね

# 閲注

また……、……、へえ……やっと、やっと乗り越えられた過去をまたほじくり出そうとするのかい。
アタシが大嫌いで大好きで苦しかったあの日をさァ！！もう思い出したくもないんだ！七十二時間生き地獄みたいな他人の暮らしを覗き見するような罪悪感で消費しまくった過去なんかさ！もう無かったことにしたい。アンタにとってこの泣き言がなんにも、ほんの少しも心に響かないとしても、私はアンタの一つ一つに過敏だってことに気付いてよ。
それが傷付いてるのか、喜んでるのか、簡単に想像できるでしょ。…って、そんなこと言ったら「君こそ」って言い返すわけ？そうだろ？この男癪に障るわぁ。想像力が欠如してるのはお互い様じゃない。ねえ、ねえ？
アンタのその用意周到なところ、本当に最悪だから。悪趣味の骨頂って感じ。何処までも追い込んで何も言い返せないようにするところまでがアンタの手口。

人間の記憶はほとんどないのに鬼になってからの記憶は…忌々しい出来事が狭間で揉み合って壊れていくように、ずっと残るの。苦しくて、熱くて、気が触れそうになるのよ。それをアンタに一切気取らせなかったアタシは偉い。

# 極楽教コソコソ噺

明けない夜は貴方さまの小噺を聴きながら微睡む、これ以上とない幸福です。
時に思うのです…こんな甘い蜜を吸い続けたら、罰が当たるんじゃないかって。

お部屋の香りに包まれると睡たくなって…うとうとして…それでも貴方さまは私の不安を拭うようにずっと話し掛けて、笑わそうとしてくれるわ。ああ…嬉しいな。すっとぼけた返事しかできない時も、にこにこしている童磨さまがとても…

──たまに悪夢をみるけれど、忌々しい過去がよみがえるけれど、私は幸せですよ。
貴方さまの鋭利な手が、冷ややかな目と声も、今は私を愛してくださってると言うのなら……それだけで貴くて、贅沢にも程がある夢だと思いますから。
貴方さまの示す神のもとへ行く覚悟は出来ておりますゆえ。