# ぼうっと

事ある毎に罵って欲しそうだから、あの男はやっぱり普通じゃないと思うのよ。多分ねぇ、あれはアタシと話してる間も空想をしてるんじゃないかしら。だから瞳が明後日の方向をむいてたり、話が急に変わったりするんだわ。それはアタシたちにとっては普通のこと。成り立たない会話なんて言うけど、実はお互いの言葉を拾い合って違う壁に投げてるだけだから、ちゃんと会話は成立してるのよね。寧ろ深層心理に結び付いてるとも思う。本当だったら心の表面にしか掠らない（あるいは掠りもしない）言葉が、意図せずして突き刺さってる。これって凄いことじゃない？だからアタシはアンタとずっと話していられるし、心から心地好いと思えるのよ。

# 二月の春

気付いたら居ないから、偶にはゆっくり身支度をしたらいいんじゃない。ねえアンタ。アタシなんて禿に手伝って貰っても数時間掛かるのだし。…ワイシャツの釦を留めてあげたり、背広の肩をしゃんと合わせてあげたりするのも、実は結構好きなのよ。なんていうか、新婚ごっこ（．．．．．）の嗜みでね。身に染み付いてる感じ。


ぎこちない作り物みたいな笑顔にももう慣れたし、むしろ愛しさすら覚えるけど、抱き締めてる時なんかに近くで息遣いを感じると、やっぱり生きてるひと（．．）なんだって思う。不思議よね。それだけで思考に靄が掛かりそうになるもの。

# 泥濘

ふとアンタの本懐に触れた時、長らく考えてもなかったことだけど、元々はそういう生き物だったってことを思い出したんだった。いつでも、どの場所でも、アンタって本当に繊細な男ね。鬼である前に男、その本質は何一つ変わってなかった。──何が言いたいかって言うと……待ってる時間が凄く長くて何も手に付かないのよね。あぁ…イライラするわあ…ねぇ、アンタ何してるの？好きな女の子を不安にさせるなんて酷くない？

おぼえがき
逢引を重ねて一ヶ月半、あの色男に初めて鬼である身を明かしたわ。それまでずっと人間の格好だったのよ。理由はいろいろあるんだけれど。
とりあえずアンタを用心棒に立ててつまらない客を処分して貰うから。ご褒美はアタシの膝の上。どう？最高の報酬でしょ？

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すべてはアンタと紡いだ五年と半年の間に懐いた紛れもない本心よ。私が一度でも他の男との話を混ぜた？それならアンタの被害妄想だわ。いろんな立場でアンタと一緒に過ごしてきたから、苦しい思いも沢山味わってる。ほら、ホラ。ちゃんと見てよね……アタシはけなげで一途な女の子だよ。アンタが帰って来ない日を指折り数える。七十二時間は、私たちの中で区切りとして数えてた刻限。指を折るたびに胸が焼けそうになって、何度も逃げ出したくなった。狭い村だから、いやでも見える他人の仲睦まじい姿とか。あれがさ…本当にイヤだったんだから。気持ちが悪くて、とても同じ生き物とは思えない───それを予め伝え合った私たちもいかれてると思うけれど。……だから、比べてしまうの。私は何番目？一番愛してくれてる？じゃあ何で私との思い出はないの？博愛主義なんてクソみたいだからやめてよね。それと同じで平等って表現も偽善的で嫌い。今度言ったら殺してやるから。

恋愛ものだと思って観に行ったら宗教ものだったことを根に持ってるわけじゃないわ。だって私はそれよりアンタが私のお化粧に気付いてくれたことの方が何よりも嬉しかったし。そう、この男は他人にちゃんと興味があったんだってねぇ…感心したのよ。男女の逢引きにおいて褒め合うは大切なことだもの。

# すべては戀でして

はあっ…どうしよう……伊黒さんッ、なんてカッコイイの…！私って恋柱なだけに重度の恋愛体質だから、日頃から恋愛しないように気を付けてるのになんでいつも私ったら惚れちゃうのかしら……それもこれも、伊黒さんがカッコイイのが悪いわ…っ！足組んで座るのも様になってるし、その瞳に吸い込まれちゃいそうキャーーーーーッ！！

恋愛体質だから絶対に恋愛できない環境で話すようにしてるのに気付いたら……はぁ〜〜〜♡キュンキュン♡どばぁ〜〜〜ッ♡って感じなの。愛がどばぁーってして、ぐああ〜ってくるの！くうう…伊黒さん…ッ！今日もカッコイイわ…！どんな顔も素敵…！ほれぼれしちゃう…♡♡♡

……はっ！絶対に恋愛できない環境だから余計に惹かれあっちゃうのかしら。もう〜〜〜♡


恋の呼吸・◯ノ型　リセット

（※もう黙るの巻）