パンドラ。
世の中のあらゆる災厄全てを詰め込んだらしいパンドラの箱。絶対開けるなと言われていた其の蓋を、好奇心だけで開けてしまった時。閉じ込めていた沢山のネガティブなものが世の中に飛び出していったらしい。慌てて閉じた箱の中に取り残されたのは、たったひとつだけ。

っていう、まあ。誰でも知ってる様な神話。いつから、なんていうのは明確ではないし、寧ろ此のタイミングで何て断定出来る程鮮烈ではなかったかも知れない。本当に穏やかに緩やかに、俺の中に満ちて蔓延ってく此の気持ちは、先に言った神話と少しだけ似てたりする。
誰しも自分の中に抱えるマイナスの感情とか、其れに類する物。お前に降り掛かるそういうのを全部、俺が払い退けて遣れれば其れが一番良いんだけど。生憎俺の顔はアンパンじゃないしあのタイトな青いスーツを着こなせる自信も無ければお前の傍に瞬間移動出来る超人でも無いんだよね。…人間が守れるのは、自分の手が届く範囲にあるものだけなんだってさ。だからせめてお前が隣に居てくれる間は、ネガティブを概念から消し飛ばす位の甘さと優しさと暖かさと、お前の好きな言葉と音で満たして遣りたい。

でももしも、俺の手の届かない所で。例えば夢の中。
意識の外。そういう部分で、お前が冷たくて暗い所にひとりで沈んだとして、お前の中の宝箱に詰めた暖色の其れを凌駕する冷たい感情が溢れた時。どうしようもなくなった時。覗いた箱の奥に、俺の言葉があれば良い。陰鬱の逃げた箱の中になら何を詰めたって良い。そんな風に、お前の心の中ごと全部。俺が渡せる柔いもので溢れるなら。そんなしあわせなパンドラの箱、開けるしか無いでしょ。