ハッピーエンドはこうだ。
腕の立つ猟師はライフルを空に向けるが、姿を追った白い鳥の舞に目を奪われる。照準の狂った鉛玉すら演出に変えて、その鳥は悠々と踊りながら、甘っちょろい男を嘲笑うだろうよ。
自慢のライフルもトドメをさせなくなっちまえば、果たして何方が獲物なんだろうなぁ？さあ、相棒。男が鳥の心臓を撃てねぇ理由は何だと思う？

ハッピーエンドの理由を、てめぇは知ってるんじゃねえのか。…まあ、もっとも。育ちの悪ィ鼠が、指の肉を引きちぎらずに甘噛みを繰り返す理由も、ソレと同じかもしれねえな。甘ったるい蜜の味だって、俺もてめぇも何処かで既に味わってんのかもしれねぇ。笑えるけどよ。
兎に角、狡賢い鼠に簡単に鍵を渡したんじゃ終いだ。透き通ったシトリンをくわえて、もう返しちゃ貰えなくなるってモンだろ。
ま、目も当てられねぇクライマックスの心中までは、精々足掻いて踊ろうぜ。

俺とてめえの心中なんざロマンティックなもんじゃなくていい。
路地裏で互いのドタマに大好きな鉛玉をぶち込んで、そのまま悪臭放って死んでいけりゃ最高のフィナーレだ。悪行三昧、極悪非道なマフィア様が天国なんぞに行っちまったら、閻魔様がさぞ寂しがってべソかいちまう。腐乱した後にゴミ収集車に連れられて、そのままお前と鳴かせた安物のベッドと一緒にスクラップにされんのが悪党には相応しい。

ただ、一つ我儘が叶うなら。
死に際に渡るっつう大河の前で払うもんが、何処にでも溢れてるそのブレッドじゃなけりゃいい。最期に喰らう弾丸を、誰にも渡さずに持っていたい。
勘違いするな。人の目の前で女の肩を抱いてみせる誰かさんに恨みの一発、その頬にぶつける為の目印にするだけだ。だから、そうだ。これは、この想いは甘ったるい蜜みてえなもんじゃない。
死んでも負けねえ。比喩もなしに、それだけなんだ。

白い鳥の末路を知ってるか。
因みに俺は知ってる。そこに猟師とご立派なライフルがありゃ、行き着くハッピーエンドは1つしかねえ。青い空に1羽気持ち良さそうに飛んでりゃ、そりゃ撃ち抜いててめえのもんにするしかねえだろ。ブルーバード、なんてもんは手に出来ねえ。青に青が紛れ込んで、それの何処が魅惑的に映るっつうのか。

つまりはそういう事だ。俺にとっててめえは花を踏み荒らす薄汚えラットで、俺にとってテメェは空に浮いた白い鳥だった。周囲に馴染もうともしねえその高慢っぷりに、喰いちぎられるのも覚悟で指を伸ばした。
後悔？そんなもんは、この人生が始まった時から俺の前から姿を消した。

La vita è cominciata．

腹の立つ狐顔が笑いながら響かせた銃声で目覚める。始まった人生は、清々しい硝煙と金の匂い、輝かしいネオンで構成されるよく出来たミニチュアだった。
お前が俺にリアルを感じさせろ。お前の身体と心で、このクソッタレな世界のシロップを味わわせろよ。

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