過去の選択

ふとしたときに思い出すことがある。
あの時こうしていれば、或いはああしなかったならば、今でも拙者は彼の隣に居られたのだろうか。

なに、未練がある訳ではござらんよ。単なる思考実験のようなもの、考えても栓無きことをそれらしい理屈で捏ねているに過ぎぬ。これも偏に暇人の特権でござるな。
ただ、別れた後もこうして続くような後悔を、お主との間には残したくはないと思ったのだ。一応釘を刺しておくが、無論単なる心構えの問題でござる。別れるつもりなど毛頭ない。
今にして思えば、過去の選択など取るに足らぬものばかり。だが、あの頃の拙者にはそのどれもが難しかった。理解出来ずとも歩み寄ること、照れに隠された不器用な要求に応えること、或いは断ること。
過去を振り返れば幾つもの失敗だけが横たわっている。失敗の分岐の末に辿り着いた拙者を、好きだと受け入れてくれたお主に恥じぬ選択をしたい。その為の反芻、その為の思考実験。
果たして、今の自分は同じ状況に置かれた時どのような対処をするのだろうか。

往来の中でキスをしてくれと強請られたあの日の正解を、拙者は今でも考えている。

贈り物

贈り物なんざ、何年振りだったか。
揃いで買ったネックレスを箱に詰めて、空いた隙間に何を詰めようかと逡巡した。梱包材で誤魔化すには、その空白は余りに広い。箱の大きさを変えりゃあ話は済むが、折角の機会だ。
一番の目当ての箱より大きいその余白に最近取り寄せて気に入っているゼリーを一箱とアイツが好きそうな琥珀菓子を幾つか、それと飴を入れてやった。堪え性のないアイツにちんたら舐める丸飴は合わんだろうから、噛んでも良い薄飴を二箱ほど。
さて、アイツは気付くだろうか。他のどの菓子でもねェ、飴を贈る意味を。
きっと知らんだろう。そう言うことを気にするような奴でもねェことは、このおれが一番よく知っている。
それでも、そう言う意味としておれが贈ったと知った時のアイツの顔は、きっと大層笑えるだろう。想像したら試さずにはいられなかった。
クハハ、まだまだ青いな、おれも。

#0702
マカロンが届いた。

未明

きーいてないとも、聞いてないとも！
朝方寝ぼけたお前が私の名前をしきりに呼んで、起きてないかを確認しながら好き好きと熱烈に愛を伝えてくれていただなんてすこっしも聞いてない！
だから、なあ、旅人。
もう一回、起きている私にちゃんと伝えてはくれないだろうか。

休日の過ごし方

穏やかな日々だ。
共に起き、食い、そしてまた眠る。
戯れのように互いの身体を貪って、飽きもせず人間の野生を繰り返している。
時折譲れない主張で言い合うことはあっても、互いの手の届く距離からは離れようとも思わない。この距離が心地良くて堪らない。
常に君の体温を感じながら過ごして、疲れたときには寄りかかれる距離。
このクソ暑ィ時期に何言ってんだよ、なんて。
そう言って君は笑うだろうか。

明日は、君と一日過ごせる貴重な休みだ。
何をするでもない、何かをしなくたって構わない。特別なことなんて何一つなくたって、きっと君といるだけでただひたすらに楽しくて、そしてあっという間に終わってしまう一日になるだろう。
私たちに必要なのはきっと、そんな毎日だ。

そんな、青春を過ごしてる。

儘ならないことばかりだ、人生。

他人は素より、自分の身体や思考、それすら儘ならないとは全くもって驚きだぜ。かくも思い通りにいかないもんかと我事ながら呆れるしかない。
同じ過ちを繰り返す馬鹿には、少しばかりの無理が似合う。箍を外せないのなら、望み通り午後の死をたらふく詰め込んでやろうじゃないか。
やれやれ、…つまらなくなってきやがった。