おすすめ

眠れない夜に、勧めてもらった曲を聴いた。
俺の時代には無かった曲調、無かった言語が混ざった歌詞は当然ながら聴き慣れなかったが、それでも不思議と耳に馴染んだ。
理由は言うまでもない。

彼の好きなものを知りたかった。
それは例えば音楽でも、食べ物でも良かった。
彼がどういう風に世界を捉え、そして好いているのかが知りたかった。
あわよくば、それを共有して欲しかった。
…なんて、なぁんかまるで僕ってば少女漫画の主人公みたいだね。そんなガラでもないくせに。
あー、ヤダヤダ。

記念日

確保

休日

驚いたことに、この時間はもう外が明るい。
ベランダで煙草に火を付けていると、少しずつ街にも明かりが灯り始めた。
新聞配達が眠そうに通り過ぎていく中、仲睦まじい夫婦が河川敷を散歩している。
紫煙を燻らせながら、室内に目を戻す。
盛り上がった布団の中、恋人は夢を見ている。

素晴らしい朝だ。

もう数時間もすれば愛しい君が起きて来て、先に起きていたんなら起こしてくださいよなんて可愛いことを言いながら美味い朝食を作ってくれるに違いない。
その隣で俺は珈琲を淹れよう、君に教わった方法で。
それだけできっと、今日は素晴らしい一日になる。

来年の七夕も君と共に迎えられますように　　
　　傑

過去の選択

ふとしたときに思い出すことがある。
あの時こうしていれば、或いはああしなかったならば、今でも拙者は彼の隣に居られたのだろうか。

なに、未練がある訳ではござらんよ。単なる思考実験のようなもの、考えても栓無きことをそれらしい理屈で捏ねているに過ぎぬ。これも偏に暇人の特権でござるな。
ただ、別れた後もこうして続くような後悔を、お主との間には残したくはないと思ったのだ。一応釘を刺しておくが、無論単なる心構えの問題でござる。別れるつもりなど毛頭ない。
今にして思えば、過去の選択など取るに足らぬものばかり。だが、あの頃の拙者にはそのどれもが難しかった。理解出来ずとも歩み寄ること、照れに隠された不器用な要求に応えること、或いは断ること。
過去を振り返れば幾つもの失敗だけが横たわっている。失敗の分岐の末に辿り着いた拙者を、好きだと受け入れてくれたお主に恥じぬ選択をしたい。その為の反芻、その為の思考実験。
果たして、今の自分は同じ状況に置かれた時どのような対処をするのだろうか。

往来の中でキスをしてくれと強請られたあの日の正解を、拙者は今でも考えている。