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日々是
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230 :
乾貞治
2008/04/07 23:07
2008/06/03 編集
月に向かって、遠吠えをするような恋をしていた。
届かないと分かり切っていて尚、それを欲しがって喉を枯らすような。
暗い林を抜ける事も出来ずに、彼から降る淡い光に落ちる影だけが俺の存在を唯一証明しているようで、…少しでも、ほんの僅かでもいいから彼の傍に寄りたくて、草の生えない丘の上から彼に向かって吠えていた。
俺の周りはいつも雑然と整理されていて、そこにあるのはデータとそれを元にした真実と嘘とそれを見極める目。
それ以外はポケットに入るくらいで充分過ぎる程だったし、第一色鮮やかな世界なんてもの程、俺に不釣り合いなものはないと思っていた。
モノクロで処理するのが精一杯の俺のキャパシティで、フルカラーは処理出来る限界を越えていると。
夜道の林を抜けて迷い込んだのは影すら映らないトンネルで…長いようで短かったそのトンネルが終焉を迎え
その出口で見えた光に戸惑った事も、事実。
今まで知らなかった世界が、そこにはあった。
柔らかな明るさと、降り注ぐ暖かさ。
万人に分け隔てなく注がれるその恩恵は、俺にはふさわしくないとそう、自覚していて。
林を抜けてから妙なトンネルに迷い込んでいた毛皮はくすんでモノクロのままで、毛質はごわごわと硬く…きっと、あの場所に居るものとは相容れないに違いない。
全く別の世界の事だと、…諦めるというよりは弾き出された答えを元に下した判断で道を逸れようとした時に、唐突に…光が俺の方へと向いた。
薄汚れた自らの被毛を、随分と恥ずかしく思った事を覚えている。
光の筋を追うように、トンネルのすぐ側まで緑の絨毯が芽吹いて
…こちらにおいでと、無言の誘惑をしていた。
柔らかな緑を見下ろして、俺は随分と長い事そこにとどまっていたね。
最初の一歩を踏み出すのがどうしても怖くて、トンネルの出口でその光を眺めていれば気紛れにこちらへと向いただけのそれはいずれ他へと向けられるだろう、なんて考えていた。
今こうして、君の傍に居られるのは…あの時君が、辛抱強く俺を待っていてくれたからだ。
あの時の俺は、今の俺を全く想像していなかった。
こんな風に幸せで、暖かい場所に自分が馴染む事すら予想の範囲外だったんだよ。
あの頃遠吠えをしていた俺も、今は日だまりでのんびりと微睡んでいる。
…未だにがっつくのは、ほら…君が可愛いからだ。
…こんな風に言うと可愛くないと反論があるんだろうけれど。
もうすぐ、君と過ごす二度目の夏が来る。
基本的に日陰属性の俺を引っ張って、陽射しの下で笑う君が見える。
河原での勝負も、夏祭りも。
一つ一つ重ねた分だけ、新しい君を発見出来る事を、大切にしたいと思う。
今日が誕生日というだけでなく、俺にとって大事な記念日だから。
君と共に在る幸せを、ここに。
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