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号八拾二年少ゐせか
 ┗491

491 :日吉若
2012/05/13 23:09

ほんとうに偶然耳の長いキツネと再会した。
キツネはとても気まぐれだから遭う度に姿を変えては人を混乱させたり秘密をあばきたがる癖がある。
そして俺は他人に自分の領域へ無遠慮に踏み込まれる行為が何よりも苦手だ。
初対面の相手なら尚更だ。
だからその時も俺の眉間に皺が寄るのと、彼の口角が上がるのはほぼ同じタイミングだった。
すぐに彼は喉奥で笑いながら彼独特の一言を俺に耳打ちしてくる。
それでようやく俺はその無礼者がキツネなのだと気がつくことができたのだけれど何かムカつく。
というか、回りくどくて人の悪いその種明かしの手段が彼の親切心からであるかについてはまったく謎だ。
ちなみにキツネとは彼の本当の名前ではない。
なんとなく、全体的にそういう雰囲気なので俺が勝手にそう呼んでいるだけだ。
毒気でいえば蛇でも良いのだけれどそれだとちょっと格好良すぎだろうから。

それでも深い井戸の底を探るような、ただ時間を浪費するばかりの彼との言葉遊びはとりとめもなくて心地が良い。
けれどキツネはいつでも悪食の上に狡賢い。
油断をすると齧られたり、もっと酷い目にあうことになる。
その日もちょっと俺の気が緩んだところで猫のそれよりは頑丈で殺傷力のある爪が食い込むことになった。
彼が最後にもったいぶった様子で井戸の底から取り出したのはそこにあるはずもない過去の残像だった。
不覚にも俺はひどく戸惑いを覚えたものだった。
ほの暗い水底から掬われたそれは、留まることはなくて鮮やかな花の面影を描いてまもなく霧散して消えた。
一瞬のことなら俺も気づかないふりをして無視すれば良かったのに、との後悔は後付けのこと。
チクリと胸を刺した棘の正体は何だったのか。
だれの痛みだったのか。
何よりも記憶の中で再生される声に戦慄を覚えた。
故意に脳裏からその声の主を押しやった俺はありったけの力を目元に込めてキツネを睨んだ。
彼はあの花の名前すら知らない筈なのに、まるで勝ち誇ったかのように目を細めて不敵に笑う。
ほんのわずかだけれど視界が滲む。

 Ne traine pas comme ca, c’est agacant. 
 Tu as decide de partir. Va-t’en.

井戸の底にそんな滓まで潜んでいた事は計算外と言う他ないだろう。
キツネは時間切れとばかりに俺に眩暈だけを残して愉しげに去っていったものだった。
こっちは勝手に置き去りにされたままで、数日経った今ですら思い出すと眩暈がぶり返すしで本当に途方に暮れる。
ま、どうでも良いことだけれど。




先日の部活の合宿で自炊当番があった。
味噌汁にカフェオレを入れてみたら思いがけない反響があった。
男が細かいことでいちいち目くじらを立てるのは如何なものかと思う。
それはそうと5月12日はザリガニの日だとか。
理由を知ったらちょっとだけ興味がひかれたような。
これもまた、どうでも良いことだけれど。

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