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794.寿司好きのシェパードとかき氷の森(保存)
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405 :
eたoまhねeぎoh(実/況)
2016/12/30(金) 00:26
>>84の続きのような?
「ビーフシチューだよーん!」
こと、と置かれたビーフシチュー。鼻腔を擽る香りに唾液が出てくる。茶色と白の液体を見て、そういえば去年もき堕っ天く使んのビーフシチューを食べたなと思い出した。
「今年もブロッコリーはちゃんと入れたぜ」
き堕っ天く使んも去年のことを思い出してるのか、笑いながらそう言ってくれた。茶色に添えるように緑色。
「おーうまそう」
「もう食べて良い?」
「お前ら落ち着け?」
去年と違うのは、その場にあ般ろ若まとえ豆ふ腐びーもいること。き堕っ天く使んもエプロンを脱いで椅子に座った。
「いただきまぁす!」
三人同時にスプーンを持ち、ビーフシチューに手をつける。
「うめー!」
え豆ふ腐びーの安直だが分かりやすい感想にき堕っ天く使んの顔が綻んだ。そうして、彼もスプーンを手に持ち食べ始めた。あ般ろ若まも口には出さなかったが、食べる手が止まっていない時点で言わずもがなだった。
「今年はどうだった?」
抽象的な言葉だったが、き堕っ天く使んの言葉は俺の去年と重ね合わせて言っているのだと分かった。
「んー……」
もぐもぐ、じゃがいもをかじりながら考えた。今年の俺も、まあ大層上がり下がりが激しかった。どちらかと言えば今年の方があったかもしれない。辛いこと嫌なこと、沢山あった。美味しいものを食べても忘れられないことも沢山。けれど、落ち着いた今ではそんなこと初めから無かったかのように穏やかな気分だ。今でも思い出したらまあまあ辛い、が、忘れられるということは大したことじゃなかったんだろう。
「楽しかったよ」
それに、下ばかり見てもしょうがない。反対に楽しいことだって色々とあったのだから。俺はそう一言だけ言った。
「……そっか」
「楽しいこと覚えてた方が人生楽しいしねぇ」
え豆ふ腐びーも付け足すように言う。マッシュルームを口に入れる。形がいつもと違った。薄切りではなく四分の一カットだったし、食感も良い。
「缶詰じゃなくて、生のマッシュルーム使ったんだー」
俺の表情に目敏く気付いたのか、解説をくれた。美味い。ふと見ると、食べる手を止めるあ般ろ若まと目が合った。
「お前がそう思うんなら、そう思ってた方が賢明だ」
頷いて、食べるのを再開させる。
「最もだな」
余計なことは、考えないのが吉だ。
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84 :
eたoまhねeぎoh(実/況)
2015/11/01(日) 22:22
ビーフシチューを食った。会社の社食じゃなくて、き堕っ天く使んの家で。
そのビーフシチューは焦げ茶色に白い生クリームが渦を巻いて掛けられていて、つやつや輝いていた。そろりとスプーンを入れるとその茶色と白の螺旋はあっさりと崩れ、不思議な模様がスプーンの上に収まった。慎重に口に入れて、熱々の温度を楽しむ。はふはふ、なんて効果音が出そうな位熱くてどろりとしたものが喉を通る。もう一口。香りが鼻まで上がってきて、ああビーフシチューだなんて今更な感想を覚えた。
「美味しい?」
き堕っ天く使んが静かに聞いてきて、俺は黙って頷く。彼の視線はひたすら俺の持つスプーンにだけ注がれていた。茶色に紛れてとろとろになった牛肉を掬う。じっくり手間を掛けて煮込んだのであろうそれは掬うだけでも崩れそうで、塊としての威圧感と崩れそうな儚さの真逆の要素を両方とも持ち合わせていた。案の定口の中ではあっさりと崩れ、いや蕩けてすぐに牛肉としての形を失った。だがただ柔らかいだけじゃない、牛肉としての味がそこにはあった。
「俺は固い牛肉も好きなんだけどね」
き堕っ天く使んもスプーンを取り、自分の皿のビーフシチューに手をつけた。
「だって、食べごたえがあるじゃん?」
また、黙って頷いた。甘いスイーツのようなニンジン、味の染みたジャガイモ、たまにしか見付けれないタマネギ、心地好い食感を与えてくれるブロッコリー。どれもが別々に色んな方向から舌を楽しませ、個性を放ちながらもビーフシチューとしての枠に収まっていた。
「ビーフシチューにブロッコリーって異色だと思う?」
俺は首を横に降った。
「全てが柔らかくて食べやすいビーフシチューも良いと思うんだけど、俺は一味欲しかったんだよねー」
ブロッコリーをまた一口食べる。緑の部分はしんなりとして、白い部分はしゃっきりとその形を保っている。他の具材と違って、完成する直前に入れたのだろう。異彩を放っていたが、俺は純粋にそれを美味しいと思えた。次に作ってくれる時もまたブロッコリーを入れて欲しいと思う程度には。き堕っ天く使んのビーフシチューでブロッコリーが入ってないことなんかなかったけど。
「バターロールも食べてよ」
ニッと歯を見せて笑った彼はパンの入ったカゴを俺の前に押し出した。一つ手に取ると、ほかほかとまだ温かかった。焼いてからそう時間が経っていないに違いない。表面が艶めいて綺麗な焦げ色を見せるそれは芸術品と言っても差し支えないほど美しかった。ちぎってそのまま口に入れてみる。バターの香りが控えめに口の中に広がり、パン特有の甘さが顔を見せた。
「美味しいね」
素直にそう感想を述べると、き堕っ天く使んの顔はぱっと輝いた。多分普段だったら「違いの分かる男だなあお前は!」とか騒いでいたんだろうけど、今日は言葉少なめに「今日のは自信作なんだ」とだけ言った。
浸して、食べる。バターロールの甘みとビーフシチューの味が絶妙に合わさってまた美味しい。無心でちぎって食べ、たまに別々に食べる。目の前の作品に舌と手を集中させてたら、あっという間に皿の中身は空になった。
「おかわりいるよね」
俺の答えを聞かずにおかわりがよそわれた。俺は食べる作業を再開させる。
たまに思い出したように置いてあった白菜の漬物をつまむ。ミスマッチかもしれないけど、これが案外口直しにいいのだ。それに、冷蔵庫の残り物消化だ。
そうして俺が満足して一息ついたところで、二人で手を合わせた。
「「ごちそうさまでした」」
美味しいものを食べて、機嫌が治るなんて俺は案外単純なのかもしれない。それでも、美味しいものを食べて幸せになるのは悪い気分じゃなかった。
「今だけは忘れなよ」
き堕っ天く使んが立ち上がる。
「美味しいものを食べる今だけは、辛いことや嫌なことを忘れて良いんだよ。それで、幸せな気持ちになって帰ってくれよ」
にっこりと微笑んで、皿をキッチンに下げに行ってしまった彼を見て、俺は人を幸せに出来るき堕っ天く使んは本当に天使なのかもしれないなあ、と馬鹿みたいなことを思った。