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465 :零崎軋識(零崎軋識の人間ノック)
2017/02/28(火) 19:06

※時系列とか設定とか最早気にしない人向け


ぴこぴこ。
スマホの通知が鳴った。
「おい、鳴ってるぞ。出なくて良いのか?」
ごく自然に居座る粗大ゴミ(兎吊木のことだ)に指摘を受け、俺はスマホを手に取った。表示名は『舞織』、粗大ゴミに一瞬視線を移して俺はリビングを出た。何で俺の家なのに部屋をわざわざ移動しなくてはいけないのか苛立ちがつのるが、そんな些細なことを気にしていては粗大ゴミを家から追い出すことが出来ない俺自身に更に苛立ちが出てくるので今更考えるのを止めた。それより、表示名を見て色々と探られる方が面倒だ。
「はい」
『うわーーーん!!』
盛大な泣き声にスマホを耳から離す。
『うえぇ……』
電話の相手は泣いていた。
「どうしたっちゃ」
『……えき』
「あ?」
『駅前、きてください……』
幸か不幸か、俺が今現在使っている住み処は零崎として使っている家だ。だから粗大ゴミが常駐していると非常にまずいのであるが、閑話休題。ただならぬ様子に焦った俺は即座に頷いた。
「分かった、すぐ行くっちゃ。待ってろ」
通話を切ると、俺は寛いでいた粗大ゴミを窓から放り投げて追い出し、零崎としての格好に着替えて飛び出した。髪型は多少乱れているが、この格好であるし麦わら帽子を被っているので目立つまい。
「舞織!」
泣いている女子高生に駆け寄る麦わら帽子という構図に駅の人々の視線が自然と集まるが、無視して話し掛ける。舞織は覆っていた顔をこちらへ向けると勢い良く抱きついてきた。
「軋識さあん……!」
号泣だ。何か聞こうと思っても聞けるような雰囲気すら出さない程の大号泣だった。タンクトップがびしょびしょに濡れていく。新入りとはいえ彼女も零崎だ、抗争のような事態であれば話すことを優先させるだろうと思って俺は促さずに頭を軽く撫でてやった。
「うう……」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら泣く彼女の手を引いて家へと戻る。家に帰る道でも彼女は一言も喋らず無言だったが、涙を流す量は減っていて徐々に落ち着いている事が伺えた。
家のリビングへと導いてソファへ座らせて俺はキッチンでホットココアを用意する。リビングに粗大ゴミが戻ってなくて良かったと思う。キッチンには何故か見計らったように作りたてのココアがあったが、俺はそれを無視して作り直した。キッチンに戻るとソファの前の机には鼻をかんだティッシュが山のようにあった。
「軋識さん……」
「飲め、っちゃ」
目を赤くしながら俺を見上げる舞織は静かにココアを受け取ってココアを飲み始めた。舞織は大抵というかいつも人識と一緒に居る筈だが、今日は気配すら感じられない。一人で来たのだろうか。
「好きな人に……また都合良く使われちゃいました」
舞織はこうして二人きりの時、恋愛話をする。誰でもない、この俺にだ。人識が少しだけ席を外すときだとか、俺が会いに行ったときだとか。メールでも一切語られることはなく、言霊としてしか残らない対面の時でしかその話はされなかった。舞織の好きなヤツは何も知らない一般人だそうだ。いつ己の手で殺してしまうかも分からないような、ごく普通の人間に殺人鬼が恋をしている。滑稽な話だ。俺も人のことを笑えないが(この件に関しては深くは言わず、読み手の想像に任せることにする。何とでも取ってくれ)。いや、もしかしたら彼女はそういった気配を無意識に感じ取って俺に相談しているのかもしれない。
「もう、どうしたらいいか……分かんなくなっちゃいましたぁ……」
俺は何も答えない。コイツは俺にアドバイスを求めてる訳じゃない。吐き出したいだけなのだ。俺の内心ではそんな面倒なヤツとはさっさと関係を絶つなり殺すなりすればいいと思っているが、そんなことも言わない、言う必要はない。舞織はアホではあるが馬鹿ではない。とっくにその思考に至っているだろうし、その判断を下せない自分を嘆いているのだろう。
「鬼の目にも涙とはよく言ったものだね」
泣き疲れて泣き声が寝息に変わった頃、リビングの入り口から声が聞こえた。
「帰れっちゃ」
「つれないな」
「コイツが起きたら面倒だっちゃ」
「ふふ……この子は人間かと思うほどに人間臭いな」
兎吊木が持っていたマグカップから何かを飲む。甘い匂いがするから多分ココアだろう。 にんまりと、目元が歪む。
「もちろん、お前も人間臭いぞ。零崎軋識」
俺は返事を返さなかった。


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