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いつかの回顧録。
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295 :
英
01/21-02:46
きっかけは、些細なことだ。
コップに一滴ずつ垂らした水が、その限界を越えて溢れるのも、ただ一滴のせいであるように。
どうにもならないものはゆっくりと、始めは貯まっていることさえ気付かせないくらいに、貯まってからもまだ大丈夫だと錯覚させるくらいに、限界にきてもあと少しくらいならと思ってしまうくらいに、そう、本当にゆっくりと。
溢れた後は、もう、取り返しがつかない。
だから、その日。
それはエスカレーターに乗った時だった。
たまたま、足をかけたところが段差の真ん中で。あるだろう?エスカレーターの始めは平らだから、うっかりしてしまうこと。何でもないこと。だから俺は半歩下がって、黄色い枠の中に足をいれた。
それだけ。
それで、もう、駄目だった。
駄目だったんだ。
もう何もかもが嫌になった。
本当に唐突に、全部嫌になった。
多分もっともらしく言うなら、そうやって、俺はいつも失敗しては取り繕って、そうやって生きているんだと気付いてしまったから、何もかもが嫌になったんだとか言えるけれど、それは部分点しか貰えない不正解だ。
それからたどり着いた駅のホームはやけに静かに見えて、なんだか雪の中で耳鳴りを聞いているくらいの静かさがあって、それからコンクリートの石の割れ目がやけにクリアに見えた。
あのクリアな石と石の間に落ちて死にたくなった。
明けない夜は無いと言うけれど、朝が来るからなんだと言うんだ。朝が来ても夜が来ても俺の手は相も変わらず無力で非力で空っぽだ。なんにもない。暗闇で誤魔化したその手を明るい朝日に照らして見付けて何度絶望しただろう。
お前のいない朝は、こんなにも苦しい。
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