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いつかの回顧録。
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324 :
英
01/30-22:47
記念日になりきれなかったあの日。
初めて出会った日を、お前はまだ覚えているだろうか。付き合いたてのティーンエイジャーみたいに一月ごとに祝っていた、あの日を。
何かよく見かける数字だと思って、のちのち知ったんだが、あの日はお前と世界にとって、大きな災厄の日だったんだな。今もまだ生々しい爪痕の残るあの日を、けれど俺にとってもお前にとっても幸せな日として、迎えること。この世界は本当にとても残酷だ。
俺たちが幸せだと笑いあってケーキを食べる日、その日に過去を辛く嘆く人がいる。恐ろしさに足がすくむ人がいる。きっと、俺たちにとって悲しい思い出のあの日は誰かにとって幸福な日であることも、あるんだろう。
命の短い人の子は、子供になって、孫になって、その子供になってと繰り返すたびに、災厄の記憶を忘れていく。薄らいでいくその日の爪の深さを、けれど俺も菊も、決して忘れることなんてできないのに。あの日に亡くした人を、今もまだ鮮明に覚えているのに。人の子は物語のように遠くの出来事としてしか認識できなくなっていく。過去の出来事が、分かりやすく脚色されて、彼の大きな側面だけがピックアップされて、その心の内の柔らかいところは都合よく作りかえられていく。けれど、それでもきっと名前を覚えていてもらえる人は幸せだ。
俺たちを肉付ける人は本当は名もない民なんだ。彼らの名前はもうどこにも記録されない。ただ俺たちの心の中にだけずっとある。彼らがいたことを忘れないことが、俺たちが俺たちである証明だから。
何も忘れたくない。全部覚えていたい。
どんなに記憶を作り変えられ、塗り替えられていっても、それならせめて忘れてしまったことだけでも、覚えていたい。足りない心の穴を吹く風を抱いて眠りたい。
あの日を、ずっと覚えていたいんだ。
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