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Forest Gump
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02/15-12:38

>あの人が仕事に出ていた日中、俺はひとり家で留守番を任されていた。まだ碌に言葉も喋れなくて、外に出るのは勿論大抵の事は許されていなかったよ。俺に出来る事と言ったらひとり絵を描いたり積み木をしたり、空想に浸ったり――ある日のこと、故郷に嵐が上陸した。あの人は仕事場が危ないって言うんで、俺を置いて嵐の中に飛び込んでしまった。その日は絶え間なく激しい雨が窓ガラスを叩きつけてるんで、俺は酷く恐ろしかった。突然窓の外が恐ろしく明るくなったかと思うと、耳を劈く轟音と目を眩ます閃光。俺は思わず飛び上がった。その際に視界に飛び込んできたのは、窓に映った俺の姿。外は夜のように暗くても家の中は明るかったから、窓には俺の姿が映ったよ。ひとりぼっちの淋しさに耐えかねて俺は、窓に映る自分の姿を、窓の向こうに住んでいるよその子だということに想像して(あまつさえNという名前をつけて)、Nと呼び掛けた。弱々しい呼び掛けに窓の向こうの子供は微笑んでくれた。それからというもの俺は一人の時はNと遊ぶ事にした。目を瞑って頭の中でNの名前を呼ぶ。そうするとNは俺の手をとって、前夜にあの人が話してくれた童話の世界へ連れていってくれるんだ。勿論俺はヒーローで、Nは頼れる相方さ。そうして、いつまでも俺達は幸福にそこで暮らすんだ。 ...俺が異国の学校へ行くことになった時、Nを置いて行くのが胸が張り裂けるほどつらかったよ。Nもひどく悲しんでいたってこと、俺はちゃんと知ってるよ。だって鏡の向こうから俺にさよならのキスをしてくれた時、彼ったら泣いていたからね。

言葉も碌に喋れない程子供だった頃、俺には遊び相手がひとりも居なかった。
物心が着く頃にはもうダティもマミィも俺には居なかったんだ。親代わりに俺を育ててくれた人は居たけれど、その人は日中は仕事に行かなければならず、俺はひとり家でお留守番。やることと言えば、ひとりで積み木をしたり絵を描いたり。随分淋しい幼少時代を過ごしたと思うよ。
だから、幼い俺は遊び相手を作ることにしたんだ。俺だけにしか見えなくて、俺とだけ話しをする。俺の頭の中にだけ存在する、イマジナリィ・フレンド。所謂想像上の友達さ。仮に名前をNとしようか。それからというもの何時も彼と一緒に遊ぶようになったよ。哀しい時は側に居てくれたし、腹を立てている時は宥めてくれた。Nと一緒に居るようになってからは、淋しさなんて感じなくなったな。
けれども何時からだろう。学校という名のコミュニティーに参加するようになってから?友人と呼べる人達が出来るようになってからかな?いつの間にかNは俺の前に姿を現さなくなってしまった。特に俺は気にしなかったけどね。そもそもイマジナリィ・フレンドなんてそんなものだろ。
けれどジュニアハイスクールになる翌年になって事態は急速に変わってしまった。俺は諸事情って奴で故郷を離れ異国の学校に行かなければならなくなったんだ。俺は精神的にとても不安定になったよ。突然故郷を出て異国で住めと言われても、戸惑うしかなかった。それに俺はあまり子供らしい子供じゃなくってね。大人になったら地元で仕事を見つけて、いつか可愛い女の子と結婚して、親代わりに育ててくれた人の世話をしながら、ずっとこの土地で生きていくんだとばかり思っていたから…。親代わりに育ててくれた人の側から離れるのも心配だったんだ。当時はただ不安で仕方なかったよ。
そしたらNがまた姿を見せたんだ。故郷に残りたい俺に向かってこう言ったのさ。「じゃあ俺が代わりにこっちに残ってあげるよ」って。俺は彼に甘えることにした。俺の夢をNに託すことで、やっと俺は故郷を離れることが出来たんだ。
今でも彼は俺の一番の親友だよ。いつでも俺の悩みに耳を傾けてくれるし、俺のことを一番に理解してくれる。俺の大切な人だよ。

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