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懐中仕掛けのファフロツキーズ
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32 :
加
08/27-12:27
僕と君は一番の兄弟じゃないか。
アルフレッドから死刑宣告にも等しい通達が、蚯蚓走ったサインを添えた簡素な紙切れ一枚を介して自分の元へと届いた時は、恥ずかしい話だけど、自身の中で既に死滅したと思っていた反射神経みたいなものが働いて、思わず益体にも成らない反論を溢してしまっていた。そんな結果がこの有様だったという訳なんです。どうして、どうして貴方がそこに居るんですか。フランシスさん。貴方にだけはこんな震えた醜悪な僕の声を聞かせたくなんて無かったのに。いえ、そもそも一体全体どうして僕は、たかだか一番目だったという、ただそれだけのちっぽけな出来事に執着してしまったんだろう。心中でごちる自由さえ根刮ぎ奪い去る様に、数字には理屈なんてモノに囚われない魔力が備わっているんだよ、と、僕の目線よりほんの少し脇に焦点を逸らした彼の眼がそう解釈を講じていた。ああ、これが貴方が自負している機知に富んだ大人の宥め方なんですね。声帯が灼け爛れる程声を嗄らして解答を欲している子供に、心理を汲み取っている上で幼子特有の一過性の癇癪だと決め付け、本当の答えを与えず疑問を抱く事自体をナンセンスだと説くある種の洗脳。僕は、貴方の様な大人には絶対に成らない様に努めますから。喩え油が浮いた水溜まりに根生やしていたとしても、瑞々しい新芽は摘む物では無く育む物でしょう?
#『お兄さんにとってはお前の発言が死刑宣告なんだよな。ああもう、あいつとお前は紛う事無き兄弟だよ。さっきので確信したね。何だったら俺が保証してやっても良いぜ?』
どうして、どうして今度は掬い上げようとするんですか。確かに落とした物を拾うのは簡単です。けれど落ちて潰れた物を元に戻す事は出来ないんですよ。この掌を返す機運が大人が子供をあやす御機嫌伺いのそれだったなら、まだどんなに救われた事か。僕を安心させる為の一滴の毒、壮大な前フリなんて必要無かった。不条理の色香を乗せたリップサービスだと頭ごなしに納得したかった。そしてそのまま僕の首を掴んで意識の泥濘に沈めてくれれば良かったんです。それがどうだ、貴方に正面切って認められたら今度はこんなにも否定したくなるなんて。どうして咽び泣きたくなる程悲しくなってしまったんだろう。だってそんなもの、自分に都合の悪い記憶をわざわざ掘り起こす訳が無いじゃないか。僕なんて、その時彼と居合わせて、彼の人の顔色を捉えた瞬間に、思わず自分自身がしでかした不可解極まりない行動についてぼやいてしまった事自体を、透明が濁り始めた虹色の水溜まりに投げ棄てて全て無かった事にしてしまいたいのに。興味が無い素振りを隠れ蓑に、自分が片割れなる対象以上に固執していた、たったそれだけ。そうだと自己暗示を施してまで何を馬鹿げた事を、と、貴方は呆れ果ててしまいますか?仮に返答がイエスだったとしても、最上の枯渇に怯え追求して止まない欠落を背負う自覚の芽生えと引き換えに、一等を所有する兄弟と謂う肩書きを喪った今、貴方にだけは手を退かれたくないんです。ごめんなさい、どこまでも打算的で。ごめんなさい。フランシスさん。
ですから、どうか僕と同じ表情をしないでください。新しい鏡が欲しくなってしまうから。そうだ、新調しないといけないんだった。波紋にも負けないピカピカに磨かれた曇り一点すら無いオーダーミラーを。
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