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どうしようもない私へ
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125 :
摩
12/13-02:44
(>>000126)
しかし、違う。
兄さんは兄さんであって、兄さんで無かった。嬉しいことに変わりはない、満ち足りている、私は幸せ者である。高嶺の花だと思っていた、兄さんの側に居ることが出来るのだから。
でも、ユートピアは崩れたのだ。物事の理想像が、私にはまだ無い。頭の中で完成していないのだ、今の兄さんの思想に合わない、合わすことが出来ない。過去に縋るつもりはないが、私はどうしても過去の兄さんに想いを馳せてしまう。
好きだったのだ。兄さんが。私の全てを作り上げた人だった、今、の私に繋がる全ては兄さんからの影響により生まれたものである。おかげで私は愛を得た、民を得て、徳を得た。自信にもなったのだ。兄さんが私に及ぼした影響は、兄さんが知らない程大きい。
変わらない部分は勿論ある。しかし兄さんは大きく変わってしまった。小さな部分は変わっておらずとも、大きく変わってしまったのだ。私はそれが、少しばかり、悲しい。
もう、昔の兄さんは見れないのだ。兄さんは新しい道を進み始めた。過去の兄さんは過去でしかない。私は、過去を振り返ることばかりだ。それ程好きだった、愛していた。兄さんだって同じだったはずなのに、それなのに。変わってしまった兄さんを見て、時折、切なくなる。泣きそうになる。苦しくなり、辛くなる。
私はね、あの子が好きな、兄さんの事が、大好きだったんだ。愛して止まなかったんだ。あの子に恋をする兄さんが好きだった、そう、それが私の全てだった。私を形成するものだった。兄さん、私は、兄さんの想いから作られたようなものなのだよ。
だけれど、今の兄さんはどうだろうか。今の兄さんが好いているのは、もう、あの子ではないんだ。今の兄さんも好きなんだ、新しいものを見つけて、キラキラとしている。それでもやっぱりね、私は、あの子を愛していた、あの子の話を幸せそうにする、兄さんの事が。大好きだったんだ。
最後にあの子の元へ戻った兄さん。
私はその片鱗を見たんだ。嬉しくて、嬉しくて、それでいて悲しかった。見納めだ、最後の見納め。私は、私が記録した、あの子とあの子を愛していた兄さんのカケラをなぞる。そうして過去に焦がれて、虚しい気持ちになる。兄さんは私ではない、兄さんの気持ちは変えられない。一番よく理解しているのは、私だ。
見納め。最後の見納め。
気まぐれが起こるかもしれないね、兄さんがあの子の元へ訪れる、そんな気まぐれが。それには期待しないでおこう。離れたものの、兄さんがあの子をまだ愛している事を、私は知っているよ。
最後の見納めは、とても静かなものだった。
二人の静かな逢引であった。満天の星空の下で、悲しげに微笑む兄さんと、あの子の姿を。私は、ガラス越しに見ていた。
愛している、兄さん。
貴方は「私」を形成する全てだ。これから先もやはり変わらないのだろう。貴方に出会えた事に感謝を、貴方のお側に居られる事に感謝を。
太陽のような眩しいひと、
雪のようにはかないひと、
貴方に変わって、私が愛する事を、此処に。
「あの子には、夏が似合う」
そう、言ったのは、兄さんだった。
そうして私の中で、夏は、あの子の世界になったのである。
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126 :
摩
12/13-02:45
綴ろうと思う。
忘れないために、愛するために、「私」の全てを。
#拝啓
私の姿で、手紙を綴るのは初めてだろうか?ふふ、まあ、見ておくといい。私だって、言葉くらいは綴れるのだよ。退屈はさせないさ。
なあ、兄さん。
知っているかな、私は兄さんに憧れて、憧れて、尊敬して、憧れて。焦がれて止まなかったのだ。出会いはいつだったろうか、夏の日だろうか。一目惚れだったね。一目見て、好きになった。私はあの日からずっと兄さんに恋をしているようで、あの日から変わらず、兄さんの事が好きなのだ。
兄さんの紡ぐ言葉に惚れた。兄さんのセンスに惚れた、価値観に惚れた、ユートピアのような存在だった。存在なのだ。まさに私の中で、兄さんこそが絶対であり、兄さんが沢山のものを占めた。私の中で一つの方程式が完成してしまっていたのだ、それ程までに心酔し、愛して止まなかった。他のものから軽く咎められる程度にはね。
高嶺の花だった。私は兄さんに、手は届かなかった。足元にも及ばなかったよ、ただただ見つめるだけだ。それだけ、見つめて、思考を巡らせて、兄さんの言葉に酔って、想いを募らせる。それでいて私は幸せだった、幸せでない筈がない、兄さんに出会えたこと自体が、私の大きな幸運なのだ。
ある日転機が訪れたね。
あれも夏の日だった。兄さんと少しの言葉を交わしたのだ。それだけで私は満たされる、満たされる、兄さんの後を追うように私も新しい居場所を作ったのを覚えているよ。その際私は、兄さんの目に止まったのだ。訳が分からなかった、夢なのかと疑うほど近くに兄さんが居て、私に、私に言葉を投げ掛けている。奇跡とも呼べた、長年に渡る私の片想いは、その日に実ったのだ。浮かれない訳が無い、ぼんやりとしていた頭も一気に冴えて、嬉しくて嬉しくて、泣きそうですらあった。
(そう、夏の日の少し前に。私は実際泣いたのだった。一つの目標を失ったからである。兄さんが兄さんでなくなったその日に、私は酷く動揺し、落ち込み、泣いたのだった。私の全てであったといっても過言ではないだろう、そんな兄さんを失ったのだ。失ったらというのには少々誤差が生じるが、あながち間違いでもない。ユートピアが崩れた。そうして泣いた。しかしその結果がなければ、私は夏の日に、兄さんの側に居ることは出来なかったのだから、複雑な気持ちだ。)
近くに兄さんが居た。
毎日が夢のようであった。
兄さんは、私が名前を呼ぶことを許可してくれた。兄さんが私の名前を呼び、私は兄さんの側に居た。幸福であった、泣きそうであった、満たされていた。兄さんに触れてもらったのである、崩れてしまいそうだった。私はその時程、私が私であって良かったと思った事はない。一等尊敬してやまない、敬愛してやまない兄さんに、触れてもらえたのだ。他の誰でもないこの私自身に。認められたような気がした。長年に渡る想いを兄さんに直接伝えた。あの動揺も感動も、今だに鮮明に記憶に残っている。
私は、新しい兄さんの側に居るのだ。
>>000125
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125 :
摩
12/13-02:44
(>>000126)
しかし、違う。
兄さんは兄さんであって、兄さんで無かった。嬉しいことに変わりはない、満ち足りている、私は幸せ者である。高嶺の花だと思っていた、兄さんの側に居ることが出来るのだから。
でも、ユートピアは崩れたのだ。物事の理想像が、私にはまだ無い。頭の中で完成していないのだ、今の兄さんの思想に合わない、合わすことが出来ない。過去に縋るつもりはないが、私はどうしても過去の兄さんに想いを馳せてしまう。
好きだったのだ。兄さんが。私の全てを作り上げた人だった、今、の私に繋がる全ては兄さんからの影響により生まれたものである。おかげで私は愛を得た、民を得て、徳を得た。自信にもなったのだ。兄さんが私に及ぼした影響は、兄さんが知らない程大きい。
変わらない部分は勿論ある。しかし兄さんは大きく変わってしまった。小さな部分は変わっておらずとも、大きく変わってしまったのだ。私はそれが、少しばかり、悲しい。
もう、昔の兄さんは見れないのだ。兄さんは新しい道を進み始めた。過去の兄さんは過去でしかない。私は、過去を振り返ることばかりだ。それ程好きだった、愛していた。兄さんだって同じだったはずなのに、それなのに。変わってしまった兄さんを見て、時折、切なくなる。泣きそうになる。苦しくなり、辛くなる。
私はね、あの子が好きな、兄さんの事が、大好きだったんだ。愛して止まなかったんだ。あの子に恋をする兄さんが好きだった、そう、それが私の全てだった。私を形成するものだった。兄さん、私は、兄さんの想いから作られたようなものなのだよ。
だけれど、今の兄さんはどうだろうか。今の兄さんが好いているのは、もう、あの子ではないんだ。今の兄さんも好きなんだ、新しいものを見つけて、キラキラとしている。それでもやっぱりね、私は、あの子を愛していた、あの子の話を幸せそうにする、兄さんの事が。大好きだったんだ。
最後にあの子の元へ戻った兄さん。
私はその片鱗を見たんだ。嬉しくて、嬉しくて、それでいて悲しかった。見納めだ、最後の見納め。私は、私が記録した、あの子とあの子を愛していた兄さんのカケラをなぞる。そうして過去に焦がれて、虚しい気持ちになる。兄さんは私ではない、兄さんの気持ちは変えられない。一番よく理解しているのは、私だ。
見納め。最後の見納め。
気まぐれが起こるかもしれないね、兄さんがあの子の元へ訪れる、そんな気まぐれが。それには期待しないでおこう。離れたものの、兄さんがあの子をまだ愛している事を、私は知っているよ。
最後の見納めは、とても静かなものだった。
二人の静かな逢引であった。満天の星空の下で、悲しげに微笑む兄さんと、あの子の姿を。私は、ガラス越しに見ていた。
愛している、兄さん。
貴方は「私」を形成する全てだ。これから先もやはり変わらないのだろう。貴方に出会えた事に感謝を、貴方のお側に居られる事に感謝を。
太陽のような眩しいひと、
雪のようにはかないひと、
貴方に変わって、私が愛する事を、此処に。
「あの子には、夏が似合う」
そう、言ったのは、兄さんだった。
そうして私の中で、夏は、あの子の世界になったのである。