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猫とバタートーストと仙人と俺。
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22 :
中
01/10-22:18
昔々のお話ある。
不満があるなら言え。
他の奴に触れて欲しくないなら言え。
我はお前が言うなら、いつでも喜んでそうしてやるある。
お前が一言望むなら、家から一歩も出ねぇでお前の帰りだけを待つ。
#「好きにすればいいじゃないですか」
お前はとうとう、我を縛る言葉は言ってくれねかったあるな。
#「重荷になる気はないですから」
何度、同じ問答をしたのだったあるか。
十回か、百回か。それとも一生に一度きりだったか。
我を縛れ。
我に重くのしかかれ。
吹けば飛ぶような軽い存在なんざ不要。
もっともっと、我を必要とするよろし。
心地好いお前の重さで我を押し潰すよろし。
全部、全部、お前のための我になれるなら。
何を捨てたって、こんなに幸福な事は無い。
#『ねぇ、どこへも行かないで下さい。
# 私だけを見て。私以外に触れないで。貴方のすべて、私のものにしたいんです』
お前が最後までとうとう言ってくれねかった、我が欲しかった言葉。
どこへ居ても誰と居ても心はお前だけのものあるよと嘯きながら、
いつかお前が口にしてくれたらいいと望みながら、ずっとお前を裏切り続けた我。
縛りたいと思ってくれねぇのは、お前にとっての我はそうしたいほどの相手ではないのだろうと。
なぁ。我はお前に、縛られたかった。
追い続けたのは我。
口説き続けたのも我。
愛の言葉なんざ返さなくてもいいと、素直じゃないお前が可愛いあると、ただお前の隣を欲した我。
仮にそれが愛じゃなくても、ただ縛ってくれさえしたらきっと安心できた。
とうとう縛ってはくれねぇままお前は去り、後には勝手に心を縛られた我だけが残った。
嗚呼。我ながら最低な男だったあるな。
今なら分かるあるよ、間違ってたのは我だって。
分かったところで、今更どうにもなんねぇあるが。
それでもお前と過ごした日々、我はとても愛してた。
我の愛は自分がかつて欲しかったものを与える形で埋めていくもの。
相手にかつての自分の渇きを重ね癒す形で注ぐ愛が、今の我に愛を与える。
きっとそれは歪んだ自己愛が根幹で、でもそうする他に我は誰かの愛し方を知らない。
むかーし、むかしのお話ある。そりゃもう、埃被って化石になるくらい。
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