一覧
┗
速贄
┗29
29 :
露
02/28-08:05
失恋した、傷付いたと被害者のような顔をしている子がいたから話を聞いてみた。僕は口シ了だけど、雪解けも遠い冬の日くらいはあたたかな日差しのかわりにあたたかなことばを投げてあげようと決めている。
そうしたらその子は二回冬が来るまでの間ずっと片思いをしていて、その好きなひとに大事な子が出来てしまったらしい。だけど僕は知っている。その子は好きなひとに片思いを打ち明けたりはしなかったし、好きだと察して貰えるような小粋な愛のせりふだって囁きはしなかった。わかってもらえるわけがないじゃないと僕がいうとさめざめと泣いて、言えなかった、言う機会がなかった、出来なかったことをして好きなひとを奪ったあの子が憎い、とうそぶいた。
恋をしている女の子はすごい。好きなひとに好かれるよう努力をして、思わせぶりなせりふで好きだと目一杯伝えて、愛していると全身で表現して、一喜一憂しながら春を待つハートと一緒にダンスを踊る。家の中で手をこまねいて、好きになって貰えるはずだとあぐらをかける余裕は到底ない、切羽詰まったラブレターが可愛くて、僕はそんな彼女たちの表情を眺めるのが好きだ。
一生ひきずる、とその子は言った。打ち明けず、思いを伝えず、ただ逆恨みをして、それでどうしてひきずることが出来るんだろう。わからないけど、尋ねることは出来なかった。だって、僕は今はあたたかいふりをした口シ了だったから。思わずうらやましいなと言い掛けた言葉を飲んで誤魔化した。
恋を失ったなんてどうして言えるんだろう。まだあの子の言葉は届く。伝えてすらいないままに失うことが出来る恋だなんて、どれほど気が楽か。
やっぱり僕はあたたかい口シ了にはなれないみたい。
[
返][
削][
編]
[
戻][
設定][
管理]