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折れる
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04/07-04:27

 両手一杯に向日葵を抱えた兄さんが笑っている夢を見た。白い雪原で、誰も居らず、ただ一人きりで笑っている兄さん。夢に感情移入して傾倒する趣味は無いからただただ私は向日葵がひとつずつ枯れていくさまをみていた。ひとつ、ひとつ、萎びて、凍って、砕けて、千切れて。最終的にたったひとつ残った向日葵の花びらを拾って、静かに泣いている兄さんの顔を特に感慨も持たずに眺めた。紛い物、贋作、瓜二つでも、私の愛する人じゃあない。だから私は大事そうに抱えられた花びらを奪い去って、目の前で一息に呑み込んでやった。そうして兄さんの顔をした私の夢は涙を濃くして、私の喉に手をかけて何だどうだと泣き喚く。骨の折れる音、肉の潰れる音、それからすすり泣く声を聴いて、夢の中の私は事切れた。目を覚ますと喉に指の痕はない。頤の裏に張り付く花びらの味はしない。ああ残念、やっぱり夢だった。

 薄情な奴。だけど、夢の中の偽物を相手にきれいに振舞えるわけない。兄さんはあの人ひとり。それだけが変わらない事実なのだから。

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