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モラトリアムセカイ
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5 :
本田桜
05/18-02:02
自分は寂しがり屋なのだと、彼の人は言います。心が折れて真夜中に襖をそっと開けるのは私の方が多いのにも関わらず、それでも自分の方がきっと寂しがり屋なのだと、彼の人は言います。諦めの混ざった声音で独り言のように囁く彼。彼の人は一体、何れ程の寂しさをあの細腕に抱えているのやら。
一人で立てなくなる事を怖がっている。求める事も欲する事も。子供のように不器用な菊は、何時も何かを怖がっています。
叶わなかった時の絶望が怖くて希望を持てないのだろうと。きっとそれは今でも、変わってないのでしょうね。
一人で立てなくなればいいと思ってしまう私は、酷い人なのかもしれません。ですがきっとその時は、彼の人も同じ事を言うのでしょう。
此の恋慕は時を重ねる毎に苦味を増してゆく気がします。淡く、恋情なのか親愛なのか区別がつかない程に曖昧で、それ故に心地良い、あたたかな綿に包まれたようだったあの頃とは、全く違う。温度の無い水に深く深く沈んで、もう元には戻れない。
───甘味というのは苦味を含んで引き立つものです。独占欲も、嫉妬も、人並みに抱え苦しむようになりましたけれど、私は今幸せですから。
ただ難点なのは、菊が優しすぎるというところにありまして。私が例えどんな我儘を口にしても、彼は何を厭うことも無くそれを叶えて下さるという、妙な確信があります。つまり迂闊に我儘は言えません。
だから人がわざわざ隠しているというのに、「何を隠してるんですかいいから出しましょうね」などと笑顔で問い詰めてくる菊は、私よりも酷い人だとたまに思います。
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布団を敷こうとしているのに後ろから抱き付いて邪魔をしてくる菊が子供みたいで可愛いです。
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