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cynicism.
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14 :
04/28-23:51

 着信を知らせる音楽が先刻よりずっと鳴り続けている。それには端から気付いていたが、受話ボタンを押下しなかったのは単なる意地でしかなかった。

 「――よお、何か、久しいな。」

 久しいのはよく理解していたが、それをとうに認知していたということを知らせるのは癪だった。女々しさが先立つようで、ヤツと肩を並べたい俺はそれを感知させたくなかったんだ。電話の主はいつもより少し声色が弾んでいて、その理由を知っている所為もあって、喜々たる話には話半分にしか付き合ってやることが出来なかった。馬鹿話をするのに言葉を選ぶようになったのは何時頃だったのか、俺がヤツに負い目を感じるようになったのは何時頃だったのか。
 そうして話はいつもの話題に移り行く。それで、アイツが、と何度目かになる切り出しを前に、俺は無意識に口を開いていた。

 「今から、」
 『ん?』
 「今からお前ンところに面出しに行ってやるから、有難く思えよ。」
 『何だそりゃ。』

 「で、凹んでる俺様に背中貸せ。」

 手貸せって言いたいところだが、それはお前の恋人のために免じておいてやるから。そう俺が揶揄の意図を表面に滲ませた時に返ってきた零れ笑いを、俺は如何したって、祝えない。
 だから、その背中くらいは俺に寄越してくれ。思い切り体重かけて肩凝らせるくらいの意趣返し、それを口実にお前に会いに行くよ。

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