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さよならのワルツ
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133 :
Arthur
05/27-02:06
「お前はね、誰よりも我慢強い。それから、誰よりもさみしがり屋」
難儀な性格だね、と淡く笑ったあいつの横顔は、確かに誰かに似ていた。
このご時世、緊張感が張り詰める事はあっても枕の下に銃を忍ばせて眠る事はなくなったし、身を縮こまらせて震える手で矢を番えていた頃より余程幸せになったと、それだけは胸を張って言えるけど。
それはきっと最低ラインの話であって、大多数の普通とは違う事くらい、理解している。
キリキリと胃を痛めながら走らせるペンも万年筆からボールペンに変わった今、あの頃のようなさみしさをさみしさとも認識していなかった胸の奥の痛みを抱える事はなくなった。
それでも優しさを覚えた心臓は相変わらず小指の先で掬いあげたティーハニーの甘さを求めるし、真夜中のミルクティーを愛そうとする。
月明かりでは物足りないくせに、蛍光灯の下では眩しくて眠れないんだ。我儘になったな、と思う。
欲しがる事が多くなった。あれも、これも、と。そう、自分の周りを欲しがるのではなく、自分の身の内の空虚のひとつひとつを、埋めるしあわせを覚えてしまったから。
あれでもないこれでもないと嘆き続けて、俺は何をしたいんだろう。
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