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さよならのワルツ
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5 :
Arthur Kirkland
09/16-13:33
吐き出す事を覚えた舌が甘えるように苦い。
書き損じた一枚、成功した一枚。床に散らばった便箋は一目惚れしたのに使い道が見当たらなかった。
なぁ、お前にやろうか。愛しのダーリンにラブレターでも書いたらどうだ。
メールと言う連絡手段が発達して、それが体に馴染んだおかげで随分と使い続けているような気がするが、俺達にとっては手紙の方が身近だった。
アルフレッドやマシューが拙い文字で綴った手紙が俺の元へ届くのに海を越えて一ヶ月以上かかっていた旅路でさえ、今なら航空便で数日あれば届く。
早馬で駆けさせたあの頃を思い出して、時折紙に向かうのも悪くはない。
皮肉を混ぜ形式化させた決まり文句すら使わず、たった一言を大切に封をしてポストへ投げる。
昔なら考えられなかったな。一通の手紙にかかる時間やコスト、リスクも考えて伝えたい事を詰め込んだもんだ。
ヴェラムの上等な紙は薄っぺらいケント紙へ、願いと共に馬へ託したレターボックスは封筒に変わって無機質なポストへ突っ込めば届く。
戦場の何処に居るかも分からない奴や、宮殿に届ける為に飾られた豪奢な外装は必要なくなった。
時代の移り変わりによって簡素化されていく様式に、ほんの少しだけさみしさを抱くのは俺の悪い癖かもしれないな。
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