無知の愛

西郷はわからずやです。
僕が不機嫌になっている理由を全然知りません。「なんか坂本さん今日ヘンだなぁ？」みたいな感じでまったくわかってくれません。
たぶん、僕が10個のことを考え終わる間に3個くらいのことしか考えてないです。
「おなか減ったなぁ」「今日のごはん肉がいいな」「食べ終わったら坂ちゃんといちゃいちゃしよ～」
そんな感じです。絶対そうです。そうに違いありません。

それで僕の1.5倍か2倍くらいの量の肉を食べて、おなか一杯になったらむっすりしている僕を膝に抱いて、背中をとんとんとします。髪を整えるように撫でて、坂ちゃんお仕事がんばってえらいねぇとか、大好きですよーとか言います。
でも僕が不機嫌な理由は知りません。まったくわかってないです。西郷がわかるのはせいぜい、「なんか機嫌悪そう」とか「調子悪そう」とか、そんな程度のものです。

僕の不機嫌な理由は様々です。
仕事がやたらと忙しかったり、体調不良だったり、ツカられて思いっきりお金とられたり、
普段なら気にも留めない友人のちょっとした一言が、その時のコンディションによって引っ掛かったり。
たまには西郷が理由の時もありますが、理由が自分でもよくわからない時もあります。(僕らの中では「やだやだ期」と命名されています)

こんなに色々理由があるのに、機嫌悪そうだな～とまではわかるのに、西郷はどうしたの？とか聞きません。
ちょっと心配げな様子は見せますが、僕が話しはじめるか、機嫌が治るまで、待っていることが多いです。
待っている間、飽きもせず抱っこして、僕の頭を撫で続けます。

僕はそんな西郷を、

…そんな西郷の不理解を、ひどく愛おしく思うのです。

僕は、僕のどうでもいい不機嫌な理由なんかに振り回されてほしくはないのです。
話したくない理由の時もあるし、だいいち、こうやって傍にいて撫でてもらえれば僕は大体のことをすっかりと忘れてしまいますから。

西郷のそばにいると、舌以上に回転する頭が次第にゆっくりとした動きになってきます。
それで僕は、「こいつ米も1.5倍くらい食べてたな」「筋トレさせなきゃな」「でも眠いな」とか、それくらいのことしか考えなくなります。
次第に僕の頭は回ることを諦めて、西郷さん好きだぁ、とか、そういうことしか言えなくなります。

西郷はわからずやですし、僕の不機嫌の理由を全然知りません。
理由なんか全然知らないくせに、何度も僕を抱き締めてきます。頭も撫でますし、おまけに甘い言葉やキスまでついてきます。毎回です。飽きることなく、繰り返します。

そんな西郷が、大好きで、愛おしくて、感謝している…という、つまるところ、これはただの惚気というやつです。

以上です、終わります。なんだか恥ずかしいので。