二年
今日は悟と出会って丸二年が経つ記念日。一年を超えてからはあっという間に過ぎ去った気がしている。私たちはデートにも赴かなければ旅行にも行かず、猿どもとの接触を絶って二人きりで暮らしているから劇的なことは特にない。平凡な日々を過ごして時々大喧嘩をして、二年の間に別れる別れないの危機も一度あった。平凡な暮らしなのになんで喧嘩になるのかお互い分からないけれど、一度喧嘩になるとギクシャクしてなかなか折れない。頑固でもなきゃ特級になれやしないから当然なんだけどね。悟が怒りをあらわにすることは珍しいけれど、たまに悟が怒るとそれはそれは特大級の喧嘩になるよ。高専のころだったら校舎を吹っ飛ばしていたね。そんな風に喧嘩しつつもなんだかんだ仲直りして疲れたら横たわって、毎日「おはよう」と「おやすみ」を繰り返すうちに二年が経っていたのさ。喧嘩してない時は仲良しだよ。
実は記念日の直前私が体調を崩していた。喉の痛みから始まり、発熱、倦怠感を経て腹痛、口内炎といろんなところがぼろぼろになり、治った今も頭にモヤがかかったような感覚はなかなか抜けない。おかげで日記の筆を執れない日が続いていたんだけど記念のことは書き記しておきたいからね。
二年の記念に悟が夏野菜のカレーとスフレチーズケーキを作ってくれた。カレーは私と悟にとって特別なメニューなんだ。一緒に食べてチーズケーキをいただき、二年を祝った。
これまで、毎月祝ってきたことのほうが、やってること自体は豪華だと思う。贈り物をしたり、豪華なご馳走を並べたりしてきた。二年という節目に何をしようか悩む悟に、私はなんら変わらないものでいいと言った。
なんら変わりないことが、きっと私たちを象徴すると思ったから。
まぁ、その夜に揉めるなんてそれも私たちらしいじゃないか。
揉めたら頭を冷やしたくなる私と、そばにいたがる悟でよくすれ違うけど流石にヒートアップしたくなかったから頭を冷やさせてもらった。
舌に馴染まない苦味の煙草を吸い、紫煙を吐き出し、真夏の蒸し暑い湿気と熱気を孕んだ夜気の中で酔えもしない酒を飲む。美味しくもないもののおかげで冷静になる。真夏の蒸し暑さの不快感のおかげで頭が冷える。鬱陶しい虫がまとわりつき、今は少なくなってきた蛍光灯に焼かれ落ちていく姿を眺め、夜だというのにどこかから聞こえてくる蝉の声に急かされるように煙草を始末して土産の羊羹を持ち、悟のもとに帰ったよ。
もう夜遅かったし私は眠かったから、悟より早く寝た。朝はいつも起きてこない悟と早起きな私。夜はよく寝る悟と少し夜更かしな私。睡眠時間が短い私と長い悟。そんな私たちだから私が先に寝るのは珍しい。悟は当てつけと思ったかもしれないけど本当にただ眠かったのさ。
二年経って変わらない毎日を過ごして記念日に揉めたりしながら、やっぱり悟が好きだな、と思うんだ。
ああ、迎えにきてよって言えばよかったかな。でもそんな10代の女の子みたいなこと、教祖もやってる私がするのは恥ずかしいしさ。
とりあえず三年を祝えるように頑張るつもり。
二年間ありがとう、悟。愛してるよ。