一息に吹き消して
誕生日にいい思い出なんかなかった。特に子供の頃は、夏休み中に誕生日が終わるのだけが救いだった。惨めな思いをするのはできるだけ少ないほうが良い。物心ついたときには荒れ果てた部屋で最低限の金だけ与えられて生きていて、罵倒された記憶はあっても祝われた覚えはねぇ。たまにパチンコだか競馬だか知らねぇが何かに勝って機嫌がいい時にだけ、少しだけ置かれてる金が多い時があった……ような気もする。そう思いたいだけなのかもしれないが。
自力である程度稼ぐようになってからも特別な日にはしてこなかった。誰にも祝われることがない日を自分で祝うのもなんだか惨めで、好きなものをいくらでも買えるようになっても、丸いケーキも、有名レストランの豪華なディナーも、きっとオレの心を満たさないことを知っていたから。大人と言われる年になってもそれは変わらず、誕生日を誰かに話すのは苦手だった。金と権力と見目にだけ誘われて寄ってくる毒虫のようにギラギラと着飾った連中が上辺だけのおべっかでくれるおめでとうが、それなのに少しだけ嬉しい程度には飢えていた。子供の頃に得られなかったものを、大人になってもいつまでも追い求めてしまうらしい。結局いくつになっても満たされずに、高い酒をいくらも空けて朝までドンチャン騒ぎして、その虚しさや寂しさを誤魔化して暮らしていた。虚勢を張るのに必死で、何かを見落としてたんだろうな。いくつかになるとある夏の夜にわざわざ傷つけるような真似をされたのも、今思えば自分の寂しさに向き合ってこなかったことへの罰なのかもしれない。
振り返ればそんなふうに思えるのも、大切にこの寂しさを温めてくれたヤツがいたからなんだろうな。じゃねぇと多分今でも、虚しさと寂しさを抱えて何を求めているかもわからずに彷徨っていたんだろう。あの日からお前が両手で抱き締めて、大切にしてくれたから。今こうして、純粋な気持ちで丸いケーキに灯した火を吹き消すのを心待ちにすることができるのも、きっとお前のおかげだろうな。
ああ、嬉しいな。
自力である程度稼ぐようになってからも特別な日にはしてこなかった。誰にも祝われることがない日を自分で祝うのもなんだか惨めで、好きなものをいくらでも買えるようになっても、丸いケーキも、有名レストランの豪華なディナーも、きっとオレの心を満たさないことを知っていたから。大人と言われる年になってもそれは変わらず、誕生日を誰かに話すのは苦手だった。金と権力と見目にだけ誘われて寄ってくる毒虫のようにギラギラと着飾った連中が上辺だけのおべっかでくれるおめでとうが、それなのに少しだけ嬉しい程度には飢えていた。子供の頃に得られなかったものを、大人になってもいつまでも追い求めてしまうらしい。結局いくつになっても満たされずに、高い酒をいくらも空けて朝までドンチャン騒ぎして、その虚しさや寂しさを誤魔化して暮らしていた。虚勢を張るのに必死で、何かを見落としてたんだろうな。いくつかになるとある夏の夜にわざわざ傷つけるような真似をされたのも、今思えば自分の寂しさに向き合ってこなかったことへの罰なのかもしれない。
振り返ればそんなふうに思えるのも、大切にこの寂しさを温めてくれたヤツがいたからなんだろうな。じゃねぇと多分今でも、虚しさと寂しさを抱えて何を求めているかもわからずに彷徨っていたんだろう。あの日からお前が両手で抱き締めて、大切にしてくれたから。今こうして、純粋な気持ちで丸いケーキに灯した火を吹き消すのを心待ちにすることができるのも、きっとお前のおかげだろうな。
ああ、嬉しいな。