とある日のとある夜の話
明るくはない話
噂によると私は、ひどく冷酷な人間で、人の命をなんとも思っておらず、裏では怪しい治験という名の人体実験に加担し、真夜中の解剖室でケタケタ笑いながら死体を切り刻んでいるらしい。
全く持って噂というのは当てにならんな。そもそもこの仕事をしていていちいち人の死に心を痛めてなどいられるか。治験関係は病院側の指示に従っているだけだし、真夜中の解剖室にいたのは真夜中に患者がなくなり、遺族が解剖に同意されたからだ。死後の移植に同意されていたからいち早く臓器を取り出す必要があったわけで、だから真夜中に行うこととなった。解剖中に笑ったりなどしない。ご遺体には敬意を払うべきだ。……まぁ、債務者においてはその限りではないが。なぜなら彼らはまだ生きていて、私の手術台に乗る必要に駆られる程度のことをやってのけた大マヌケどもであるから……しかし、それは解剖室の出来事ではないから事実とは異なる。つまり、根も葉もない噂ということになる。わかったか。
まぁ、冷酷だの感情がないだのと言われるのはいつものことだ。だからそうなのかもしれない。人の言う冷酷の定義を私は正しく理解していないが、実際人間の生き死に程度のことで心が揺らぐことはほぼない。ほぼ、ないが……私でも、年端もいかない子どもがなくなるのはそれなりに気が滅入る。彼らはまだ何も知らず、愛してくれる相手にひどく誠実なだけの、純真でいたいけな存在で、まだまだその小さな体に沢山の愛を受け取るのに時間が必要だったはずだ。それが奪われるのを見るのは、私でも…それなりに堪える。
私は小児科医ではない。だから日常的に子どもを診るようなことはない。せいぜいコンサルされてきた子どもの虫垂を切除する程度だ。ただ……医者だからな、小さな命の最後を看取ることは、ある。夜の病院に運ばれてきた小さな身体に、聴診器を当て、光を当て……。そうだな、あの瞬間は、とてつもなく指先が冷える。研修で小児科を回ったときに、聴診器を当てるときには「もしもしさせて」というのだと教わった。柔い肌に冷たい金属が触れると驚くから、手のひらでよく温めてから当てるようにとも。私にそう教えた指導医は、いつもこんな気持で失われた小さな命を見ていたのだろうか。教わった通りに、した。
今夜は、できれば温かい場所で眠りたい。
全く持って噂というのは当てにならんな。そもそもこの仕事をしていていちいち人の死に心を痛めてなどいられるか。治験関係は病院側の指示に従っているだけだし、真夜中の解剖室にいたのは真夜中に患者がなくなり、遺族が解剖に同意されたからだ。死後の移植に同意されていたからいち早く臓器を取り出す必要があったわけで、だから真夜中に行うこととなった。解剖中に笑ったりなどしない。ご遺体には敬意を払うべきだ。……まぁ、債務者においてはその限りではないが。なぜなら彼らはまだ生きていて、私の手術台に乗る必要に駆られる程度のことをやってのけた大マヌケどもであるから……しかし、それは解剖室の出来事ではないから事実とは異なる。つまり、根も葉もない噂ということになる。わかったか。
まぁ、冷酷だの感情がないだのと言われるのはいつものことだ。だからそうなのかもしれない。人の言う冷酷の定義を私は正しく理解していないが、実際人間の生き死に程度のことで心が揺らぐことはほぼない。ほぼ、ないが……私でも、年端もいかない子どもがなくなるのはそれなりに気が滅入る。彼らはまだ何も知らず、愛してくれる相手にひどく誠実なだけの、純真でいたいけな存在で、まだまだその小さな体に沢山の愛を受け取るのに時間が必要だったはずだ。それが奪われるのを見るのは、私でも…それなりに堪える。
私は小児科医ではない。だから日常的に子どもを診るようなことはない。せいぜいコンサルされてきた子どもの虫垂を切除する程度だ。ただ……医者だからな、小さな命の最後を看取ることは、ある。夜の病院に運ばれてきた小さな身体に、聴診器を当て、光を当て……。そうだな、あの瞬間は、とてつもなく指先が冷える。研修で小児科を回ったときに、聴診器を当てるときには「もしもしさせて」というのだと教わった。柔い肌に冷たい金属が触れると驚くから、手のひらでよく温めてから当てるようにとも。私にそう教えた指導医は、いつもこんな気持で失われた小さな命を見ていたのだろうか。教わった通りに、した。
今夜は、できれば温かい場所で眠りたい。