その後。
提出を終えたら後はそれぞれ任務もなく解散の運びになった。釘崎がこのまま買い物に繰り出すっつーことで街に向かう補助監督の人に便乗して虎杖と連れ立って後部座席を占領する。不可侵領域となった東京、都内に密集していた人口が分散しただけに隣接する地域なんかは却って賑やかなぐらいだ。そんな真っ只中を歩こうものなら決戦の一部始終が全世界で配信されていた影響で、外見に特徴がある虎杖の奴なんかは声を掛けられることこそ屡々あったがその頻度も次第に落ち着いていった。世間が向ける関心の移ろいは窓の外を過ぎていく景色と似てめまぐるしいったらねぇ、人が築く営みの逞しさを今になって頼もしく思う。そうして降り立った矢先から意気揚々と軽やかな足取りで去っていく、タフネスさならある意味随一であろう背中を野郎二人で見送ってから、昼飯時を過ぎた辺りではあったが適当な店をなんとはなしに物色するなかでふいに立ち止まった気配がして振り返ると、ド派手なのぼり旗で囲まれた入口の前でただただ突っ立ってる姿があった。なんらかの復刻を喧伝する、煽りに煽った店内放送が少し前を歩いていた耳にまで届く。ぽつぽつと断片的ながらも語られた内容を繋ぎ合わせると、どうやら思い入れのある台らしかった。きっと当時の記憶を掘り起こしながら声に出していたに過ぎないんだろう。事情こそよく汲み取れやしないが裁判だのなんだのの関係でアイツなりのケジメらしく暫くの間、足が遠のいていたってことを知っていたのもあって。ここにきてまで遠慮しようとしやがる、蹴ったぐらいじゃびくともしねぇ筈の脹ら脛を突き飛ばしてやったら態とらしくつんのめって敷居を跨いでいってくれたから。さっきまで向き合っていた辛気臭ぇ死の気配もろとも吹き飛ばすような、鼓膜を劈く轟音につづけて呑まれていった。
そんな土産話をしたところビギナーズラックで勝ち逃げするよう言い含められた。うるせえよ。
元より射幸心に縋ろうなんざ思っちゃいない、愚直だろうと欲するものに向かって足掻くまでだ。アンタならとっくに分かってるだろうに。