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スレ一覧
┗284.酔い花かしずく(11-15/18)

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15 :榎木津礼二郎
2024/11/29(金) 12:00

 飼い猫のように気安く撫でておきながら間違えたとは何だ!!何も間違えてなんかいないぞ!!もっと僕を撫でろ!!

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14 :榎木津礼二郎
2024/11/26(火) 21:20

 鑑定を依頼されたから暫く留守にするという腰の重い古書肆の珍しい話振りがキッカケだった。
 行き先を訊けば山陰地方の北部だと云う。いつまでだと訊けば仕事が終わるまでだと云う。真逆一人で行くのかと訊いたら漸く本を閉じ、それはもう恨めしそうな目でこちらを見た。

「僕の仕事だからね」
「そうか」
「……何を笑っているんだ」
「一緒に行こうと素直に云えばいいだろうに」
「誰がいつあんたに着いてきて欲しいなんて云ったんだ」
「最初からずうっとそうとしか聞こえない」

 吸いかけの煙草を奪い取ったら殊更に眉間の皺が増えていたが全く気にもならない。小言を受け流して想像力を働かせてみる。この驚きと喜びをどんな形にして返してやろうか。こいつよりも先に目的地へ赴いて待っていたらどんな顔をするだろうな。


 ──そうして二人で遠出をした訳だ。
 何をどうやって過ごしたのかを事細かに書いた方が日記らしいのだろうが、感慨深い思い出ほど自分だけのものにしておきたくなる。あいつの事に関しては僕だけが知っていればそれでいいと思う事が多すぎる。否、──そういう風に思わされているのかもしれないな。あれはあれで食えない男だ。この照れ屋め!!

 結局、あの魚は食えたのかなあ。きっと塩がいい。

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13 :榎木津礼二郎
2024/11/22(金) 00:06

※半の色が強い為、閲覧注意。



 改めて指折り数えてみると五年になるらしい。出会った日から数え直せば凡そ七年の付き合いだと京極に云われて殊更驚いた。
 あれは初めて交わした手紙を未だに保管しているそうだ。僕も大切に持っていた筈だが、何処に仕舞ったのか分からなくなってしまった。……それはそれとして落ち込む僕を暫く観察してからしたり顔で笑っていたのは一寸可愛かったぞ。

 数年前、或る者から「飽きないのか?」と問われた事がある。生憎『飽きる』という発想すらなかった僕はその問いかけに大層驚いたものだが、京極は平然とした顔で「いっそ飽きたいくらいだったよ」と云っていた。あとで問い質したら自分なりの盛大な惚気だったと説明されてとても気分が良くなった。

 犬も食わない喧嘩の延長で仮に別れ話が持ち上がったとしても離れなければならない理由が無いと一蹴するのは僕で、あいつはいつも真正面から向き合っては折り合いをつけてくれる。
 そして、飽きもせずに云うのだ。
 榎さんに付き合えるのは僕だけだろうね、と。
 ……ん?待て待て。反論する気はないがこれじゃまるで僕だけが骨抜きにされているみたいじゃないか!!中禅寺は本馬鹿だが僕の事が大好きだ!!当たり前だ!!好きでもない男にあんたが綴った言葉を読みたいなんて強請らないだろう!!ああそうだ、この日記を始めた切っ掛けはあいつが珍しくぼやいたからだ!!思惑通りじゃない!!僕があいつを喜ばせたかったのだ!!

 好き放題に書き散らした御蔭で何を書こうとしたのかも忘れてしまったが、五年の節目を迎えた今日この日にそれらしいものを遺しておきたかった。


 中禅寺。──秋彦。
 僕はこれからだってなあんにも変わらないぞ!!

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12 :榎木津礼二郎
2024/11/19(火) 01:14

 手紙を書くぞ!!認めたら先ずは京極堂に読ませる!言葉には煩いアイツの事だから彼是と添削される未来を見越して一足先に場所取りをしておく!

>読んでみろと差し出された手紙の書き出しが『わはははははは!!僕だ!!』だった。お察しの通り手紙は暫く仕上がりそうにはない。断じて僕が厳しい訳じゃないと此処に主張しておこう。

>何が駄目だったのか皆目検討もつかない!!僕は僕だ!!



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11 :榎木津礼二郎
2024/11/17(日) 05:05

 今夜は満月だと聞いたから月見に誘った。同意も得ないままにあいつが管理する神社の境内へ向かう道すがら小言を並べられたような気もするが、まるで耳には入らなかった。
 階段を登り切ってから朧月だねと呟いた中禅寺の方を見ると、僕が視えた。少しだけ目を瞠って、考える。
 あれは──そうだ、僕が出征する前日の夜。慥かあの時も月を見ようと誘って、今より青く若かったこの男が平生を装いながら痛々しい程に握り締めていた細い手を取った。
 その肌が暖かさを取り戻すまで、ずっとずっと握っていた。

「石地蔵が素直に腰を上げた理由が分かったぞ」
「何を視たのかは知らないが野暮な事は云うもんじゃないよ」
「僕が視えた」
「……そりゃあ、そうだろうね」

 それっきり口を噤んでしまう中禅寺の冷えた手を握ってみる。振り払われはしなかったが、こちらを振り向こうともしない。
 薄曇りの夜空を仰いでいたらふと思いついて、朧月は尻子玉のようだなと呟いたら人体に尻子玉なんてものは存在しないと肘で背中を小突かれた。
 それから秋の夜風に体が悲鳴を上げるまで尻子玉と河童の話を聞く羽目にはなったが、妙に満たされた夜だった。

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