02 / 01 就寝直前
「信じて裏切られるかもしんねぇって怖がってんすか。」
日曜に、アイツにこんな風に言われた。
恋愛の話だ。
俺はまあ、今までフラレて来て、結構ヒドいフラれ方もした。
それについての話はアイツにしたし、別に隠すような事でもない。
過去の話、ってだけ。
他人の事は好きだ。
でも、こと恋愛に関してはそういうワケにもいかなくて、
意識しなくても過去のトラウマ(なんて大げさな言い方)のせいで
無意識に心のどっかにブレーキが掛かってしまっているんだと思う。
アイツの、俺への「好き」は今までとは違う。
俺がワガママ放題したり、理不尽な扱いをしたり、ヒステリー起こして喧嘩しても、
アイツは俺の事が好きだとか可愛いだとか言う。
他とは、今までとは違う。信じていい。信頼出来る。
それは分かってる。
でも、時々不安になる。漠然とした不安。
いつか嫌いになるんじゃないか、いつか居なくなるんじゃないか。
それに気付いて、アイツはあんな事を口にしたんだろう。
信じてないワケじゃない。
ずっと一緒に居て欲しい。
でも。
「バレー、アンタが捨てろって言うなら、捨ててもいいです。」
俺は、アイツにこんな事を言わせたかったワケじゃない。
それに、バレーを捨てられないのは俺の方だ。
しっかりしなきゃ、俺。
アイツにちょっと言い掛けて、ちゃんと話せなかった話。
アレのリーグシーズンが終わったら、夏向けのトレーニングウェアの宣材の撮影がある。
今年は海外チームに注目選手のアイツが増えた事もあって、
ウチの会社の外向けの宣材もバレー選手推しにしていくらしい。
そんなワケで新製品の宣材に選ばれたのが、アレ。
リーグのシーズンが終わり次第撮影になるらしいが、そこに俺も呼ばれた。
「躍動感」をテーマにするらしく、実際にアレが跳んで打つトコを撮りたいと話になり、
現在リーグ好成績選手のアレが直々に「及川が上げるトスがいい」とご所望したそうだ。
…ぶん殴ってやりたい。
で、一介のリーマンな及川さんは、会社の命令に逆らえず承諾。
リーマンに拒否権などクビ覚悟じゃないとない。
今でも及川さんドリームを見続けているヤツが、そこにもひとり居たか。バカめ。
しかもどうやら、折角ならと俺もカタログの宣材写真の一部になるらしい。
(会社のカタログだけど)遂に俺もモデルデビューってワケだ。
日本向けのカタログだから、アイツに見付かる事はないだろう。
また不機嫌になられるのも困るので、黙っておく事とする。
カタログ出来たら、岩ちゃんにだけは言っておこう。
今日で王様タイムも終わり。
さて、これからどうしてやろうかな。