¶:溢れるおもい。 どうしようもなく、色々なモノが溢れてきて。お前の名前を呼んだら泣き出してしまったわけだが。別れてからまあ、それなりの時間を有して居たが、漸くオレは最愛との別れに泣ける男になれたのだ。ただ、あまりに突然だったから、名前を呼んだまま、一旦仕切り直そうと部屋に逃げ込み、こうしてノートを広げているわけだが。片割れは当然、オレの妙な泣きスイッチに勝手にさせられてしまって可哀想ではあるが、……青峰も、すまない。理解したいと思ってくれた上の言葉だとも、解っている。ただ、オレ達は色々なモノが重なる事が無いから、今からは難しいと思うのだよ。タイミングにしろ、その瞬間の気持ちにしろ。一方だけが理解をしようとしても難しいように、オレ達はきっとそういうタイミングが悪いのだよ。お前が余所を向いて居る時にオレがお前を知りたがり、逆もそうで。恋愛をしていた時は、そういうシーソーに揺られるような高低差も愉しめたけれど、今やったら多分、オレの何かが砕けてしまうので、出来ればブランコに乗りたい。これからは別々に遊具に乗って、たまに横を向いたらお前もブランコに乗って居て、言葉を交わす……そんな距離になりたいんだ。お前に繋げたままだったオレの心も、切り離したいのだよ。 お前を愛さないオレになる為にも。 驚いて涙も引っ込んだから、また少し説明をする事にする。 大丈夫。上手く終えられる。 |
¶:閉めた扉とアプローチ。 最近、ずっと成績が下がっていた。今日はあいつの帰りを待ちながら勉強をする予定である。 そういえば、昨日あいつと話している合間に恋愛相談を受けた。が、オレにはそういう行動が理解出来ないし、女性特有とも思えるその言動を好きだからという理由だけで正当化されるのは、付き合う男側からすると少し気が重いように思えた。けれども、オレの周りにはそういうタイプばかりだから、一般的なのかもしれない。属性が違うからと一括りには出来ないが、しかし。もしこれが一般的な恋愛のアプローチなのだとしたならば、オレには恋人は作れない気がするのだが。 帰ってきたら、訊いてみるか。 ¶:紙雪積もりて、尚。 紡いだ途端、シュレッダーに掛けられたような感覚を覚えた。 雪のように、積もっていく。 重さのない雪で胸が一杯になった。 |
¶:しんみり。 雪掻きをしたが、河童のキュウ太郎ちり取りではまるで歯が立たないのだよ。水気を含んで固くなったやつらにはちり取りなんて……それから、開き直ってずっと話していた。訊こうと思っていた事を忘れていたり、恋愛相談の結果報告メールが届いて、関係ないのに少し気が落ちたり、眠る前の強烈な眠気で呂律が可笑しくなっていたな。語尾のあれは一体何だったのだろうか。後から読んでもさっぱり解らなかったのだよ。 まあ、お前のやつのが凄かったが、なかなか悪くないと思う。 先日のチョコレートの御礼を随分先延ばしにしていたから、ホワイトデーの前にラッキーアイテムを送り付けようと思っている。先日教えたオレお気に入りのストラップやら謎の生き物やら、ちょっとした物に謝辞の一筆を添えて。チョコレートには手紙が付き物だと思っていたのだが、チョコレートのみを渡される事なんてあるんだな?オレは少し面食らってしまったのだが。 あ。家に帰ったらイチ押しのやつを教えてやる。楽しみにしておけ。 しかし、眠いな。 ¶:透明な色。 最近あまり高尾と遊んでいない。今度高尾と遊ぶ時、もし時間が合うのならお前も一緒に行かないか。別に、いつも一緒に居たいだとかそういうのではないのだよ。ただあいつが『青峰くんと一緒なら、もっと楽しいと思うんです』と……む。やはり慣れないものだな、オレでは。 後は何だろう……本屋に行きたい話しかないな。そういえば、本の好みは抜群に良かったが、好きな音楽とかはあるのか。まだ話題にした事がなかったから少し気になる。とりあえず、帰宅時にはまたあれを買いに寄り道をしようと思う。 今朝は良い天気だな、陽射しが心地好い。早く雪なんて溶けてしまえば良いのに。 雪が溶けたら。 (水が溜まる。オレの好きな、透明な色でいっぱいになるのだよ。) |
¶:囚人は、花を慕う。 温度の無い掌でオレの首を絞めるのは、あの頃と同じ感触。 酷く懐かしい夢を見た。 喘ぐ喉を潰して欲しいのだと、どうして言えなかったのか。惜しむのはいつも、後先。 手折られた花の刹那に、また。 ¶:シャワールーム・ネオン。 ぬるま湯に混ぜたオイルの香りは、春の匂いがした。 それから、夏を想った。 絡み付く線が点に落ちて、鈍く軋む心臓が小さな悲鳴を上げた。 反響する湿った音は飛沫に消える。 雨と、赤い夢の後に。 (滲む朱はいつまでも焼き付いたまま、雨が輪郭を溶かしていく。もう形さえ満足には見えはしない。) |
¶:愛しい色。 ホットミルクに落とす蜂蜜みたいに、甘くて優しい匂いがした。 見上げた空はお前と同じ色。 「かなし」そう呟いたのはいつかの出来事を思い出したからだった。 その話は、お前にだけ。 ¶:就寝前の呟き。 ありがとう。ちゃんと届いていたら良い。それから、ちゃんと届いたから。節目を越えたら返事をする。 お前も。何でまだオレなんかに送ってくるのだろうか。大した会話さえした覚えもないのに、節目という節目にふらっとやって来るが。何故未だに繋がっているのだろうか。 とか考えるからダメなのか。人間関係に希望が持てないからか、つい身を退いてしまいたくなる。 上手くいかないな。 やはり、たまに話すくらいがオレの欠点を知られずに済むのだろうか。 |