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┗611.夢のうつつの(3-7/66)

|||1-||||リロ
3 :阿近
2006/11/03(金)23:41:04

鬼がひとに逆らったので捕まえろと誰かが喚いた。
後ろ手に拘束され引っ立てられた先は世にも綺麗な男の前だ。
白い顔。漆黒の瞳。同じ色の肩までの髪。
そりゃあお前は綺麗な男だろうよ、と思う。
お貴族様は俺みてぇな醜いモンが存在してちゃ我慢がならねぇんだろうと、予想がつく。
俺を目の前にしてお綺麗な無表情の侭、血でも採るか、と男が呟く。
鬼の血はどんな色か見てみたい。皿を持て喉を裂けと綺麗な口が命じる。
そりゃあんまりじゃねぇかと思う。
すぐに銀の清楚な皿が運ばれて来て、その上に俯せられる。
直ぐにざりざりと厭な音で左の首筋が掻っ切られた。
数滴雫が落ちるのが見えて、直ぐに水気が噴き出す感覚が喉を襲う。
せめて切れ味の良い刃物で、一息に殺しちゃくれねぇかと思う。
だが喉から息が漏れるのでもう何も言えやしねぇ。
ざりざり、ざりざり。
錆だらけの刃が喉を這う。
銀の皿の底が、俺の血の色で見えなくなっていく。
そうだな次は右の脈も斬れ、と綺麗な男の声が聞こえる。
頸の周りを一筋斬れば、首輪のように見えるだろうなと、無邪気な程に冷淡な声だ。
もう何も見えなくなる。
あんまりじゃねぇか、と、そう思う。

暗転。

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4 :阿近
2006/11/09(木)15:38:17

長い長い渡り廊下を、狐目の男の先導で進む。
此処には俺と狐の二人しか居ないのに、行く手の襖は独りでに開き、俺が通り過ぎると独りでに閉まる。
あまりにも長い廊下なので、俺はすっかり疲弊している。
足が重くて前に進み辛い。
喉を通る空気は厭な音を立てる。
「鬼の道行きは難儀やなぁ」
前を行く狐が振り返りもせずに言う。
銀の髪。項に覗く、色の薄い肌。俺とは違う、舞うように軽い足取り。白い羽織のはためきが目にちらつく。
「鬼の道行きを案内するお前も鬼なのか」
息も絶え絶えの俺の問いを、狐は一蹴する。
「キミなんかと一緒にしなや」
柔らかい声音の、完全な拒絶。
解ってる、戯言だ、と、声に出さずに弁解する。
また行く手の襖が開いた。
今までとは違う。その先に廊下は無い。先も見えない闇ばかりだ。
「ここからは独りで行き。これ以上は付き合えんわ」
鬼は独りで去ね。
そう言われた。
そういうことだろうな、と俺はすぐに諦める。
だが気持ちは遣り切れない。
あぁどうせそうなんだろうな。てめぇら誰一人俺の傍に居ちゃくれねぇものな。
駄々を捏ねるように俺が喚くと、狐は笑った。
「キミは自分だけが可哀想なんやね。受け入れないのも独りで居るのも置いて行くのも、全部自分が決めたことやろ」
なのに寂しいやなんて、我侭な子や。
それも本当は、とっくに解ってることだ。
それでもまだ俺は、此処に居てぇんだ。
その先には、行きたくねぇ。

覚醒。
作業机に座ったまま寝るなと、眼鏡女が喚いている。

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5 :阿近
2006/11/21(火)01:54:40

培養液の安定値の割り出しに目が離せねぇ時に、局長からの蝶があくせく飛んで来て、義骸関節の在庫確認を頼まれる。
雌弐のミ番/雌参拾のヰ番/雄壱拾壱のサ行番とナ行番を一通り/七番倉庫に入って右曲がり二つ越え左手にある壱拾参番と書かれた棚の内で認識票の剥がれているワ行番は幾つか。
こういう時に限って紙が無いので、蝶が読み上げる番号は煙草の箱を破って中に木炭で書き留める。
お陰で手がすっかり煤けて黒くなった。
培養槽の様子見は不平を垂れる眼鏡女に任せてひとまず倉庫棟に向かう。
途中自室に寄り、以前から借りっ放しだった七番倉庫の鍵を回収する。
部屋を出ようとして、雑多な自分の机の上で機械蝶が蠢いているのを見付けた。
確かもう少しで飛べそうな所まで作ってはみたが途中で気乗りがしなくなってぶっ壊した筈の、鉄と針金と電気のいびつな機械蝶だ。
動力部は針で突いて完全に潰したのに何故動いているのかと気味が悪くて触れて確かめようとする。
と、俺の方へ針金を軋ませながら機械蝶が、聞き覚えのある声で言う筈の無い一言を。
「お幸せに。サヨナラ」
勘弁してくれ、と思う。

覚醒。
二時間程度の仮眠中にみっしりコレじゃ、眠った気がしねぇ。

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6 :阿近
2006/11/23(木)01:48:09

俺の部屋はいつも雑多なものや汚いものや意味のないものや目を覆いたくなるようなもので溢れていて。
大抵の奴は一目見て、見なければ良かったという後悔の表情を浮かべるか、
少しは片付けろという非難の表情で俺を見るかだ。
その気持ちは解らねぇでもないし、
俺だって例えば吸殻がうず高く積み上がった灰皿なんぞは、片付けてくれる奴が居るのなら本当に頼みたい。
何しろ、崩れないよう隙間を縫って吸殻を突っ込むのには中々骨が折れるので。

それでも、そんな雑多なものの隙間で身体を丸めて瞼を閉じるのが、俺の得られる一番深い眠りだと、気付いちまったのは仕方ねぇことで。
例えば馴染みの店に行けば、良い侍従の香が薫き染められた袂を揺らして、やわらかな女という生き物が俺の寝付くまで髪を撫でてくれるのかも知れねぇが。
いつも結局俺はおんなの手を振り払ってこのがらくた塗れの部屋に戻る。
ひとの前で眠るのは得意じゃねぇ。

黒革の長椅子は俺独りが座っただけで軋む。
足許の方には書類が山積みになっているので脚は伸ばせやしねぇ。
なので、膝を抱えるように身体を折り曲げて右の肩を左手で、左の肩を右手で、きつく抱いて身体を縮める。
目の前の卓の上の蟲籠の中で、のろのろ蠢く蟲の影なんぞを眺めている内に、それなりに眠くなって来るもんだ。


そんなことを考えながら今日も少しの仮眠に。
沈没。

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7 :阿近
2006/12/02(土)04:49:50

舌の裏がざらつくので排水溝に唾を吐いてみたら、
鈍色の流しの底に弾けて広がった唾液の中に、見覚えのある蟲の卵が山程うごめいていた。

「てめぇら、誰の許可を得て俺の口ん中に棲んでんだ。」


とまあ、それだけの夢。

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