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┗611.夢のうつつの(8-12/66)

|||1-||||リロ
8 :阿近
2006/12/22(金)23:02:03

雪の上を裸足で歩く夢を見て、
目が覚めると鼻も唇も指も、角の先まで冷え切っていた。
部屋に一つだけの、ささやかな暖房が湿気か霜辺りでぶち壊れたらしい。

見回ってみると、寒さに弱い蟲が何匹か籠の中で動かなくなっていた。
気に入りの蝶は、橙の羽根を畳んで腹を晒して、籠の底で脚を震わせている。
畜生。こいつの卵はもう残り少ねぇってのに。
水槽の魚はどうにか無事。意外と強ぇもんだ。



彼処の中庭の鯉も元気かどうかと、頭の隅に思い出す。
餌をよくやっていた副隊長殿が居たが、そいつも此処の所は顔を出してねぇらしい。で、もう来ねぇかも知れねぇらしい。
チーズタラ、だったか。食ってみたかったんだがな。共食いをさせるよりも俺に寄越せと言ってやりゃあ良かった。

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9 :阿近
2006/12/24(日)02:26:26

局長の曲がった背中に声を掛けたら綺麗に無視された。
術式中はよくあることだ。この職場には、集中すると周囲の一切を知覚から排除する奴が多い。
仕方が無いので、隣の部屋に居た眼鏡女に伝言を頼もうとしたが、こいつからも返事が無かった。
作業台に喰い付くように俯いたまま、時間が止まったみてぇに小さな背中が動かねぇ。まぁ、多分俺も仕事中はこんなもんだろう。
改めて周りを見てみると、周りに居る局員の誰も、俺の方を向いている奴が居なかった。

一瞬莫迦な考えが頭を過って、自分の手を見る。
特に透けては見えねぇが、俺を今見ている奴が俺しか居ねぇなら、幽霊と同じだ。

誰かの手が空くのを待とうと、壁に凭れて座り込んで、煙草を吸い始める。
その内に眼鏡女辺りが気付いて、ヤニ臭いの何だのと文句を付け始めるだろう。
これを伝えねぇと俺の仕事が進まねぇから待つんだ、と、いつの間にか自分に言い訳をしている。
別に誰かと話したいなんて訳じゃねぇ。


覚醒。
甘ったれた夢を見せる脳に嫌悪。

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10 :阿近
2006/12/26(火)04:01:29

池の辺に置き去りにされた紙袋の、中身の処理方法を考える。
前に貰った分は、珍しがって大事にしてる内に食い損ねた。

申し訳程度に鯉に撒いてやってから、封の開いてねぇ残りはこっそり懐に仕舞い込むことにした。
拾い食いとか言われそうだが、これは元々人間様の食いモンだ、鯉共。


チーズタラとチーカマは違うもんらしいが、取り敢えずはチーズは合っていた。似たようなもんじゃねぇのか。

食ってみての感想は、出戻った時にでも。

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11 :阿近
2006/12/30(土)22:05:12

触るなと叫んでいるのは俺じゃねぇ。



夜明けの夢の中で
誰も俺に触んな畜生と吐くまで泣き喚いている
あんなものが俺である訳がねぇ。




実際の俺は随分とお安い男なので
あったけぇ手で触れられりゃ、たちまち悦くなって腹の奥が熱くなる。
少し優しくされりゃすぐに良い気分で付け上がる。

いつもそれで満足だ。
誰だっていい。
触れるななんて、我儘を言う筈もねぇ。

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12 :阿近
2006/12/31(日)08:10:50

誰かと並んで朝焼けを見ている。
いちいち横なんざ見やしねぇが、多分局長じゃねぇかと気配で思う。

煙草の煙よりも、刺すような光の方が目に染みる。
喉の奥で微かに血の味がするのは、多分此処が寒過ぎる所為だ。
朝の太陽は大嫌いだが
夜明けに吸う煙草は何故だか美味い。

「俺はこうやって、仕事の合間の一服の煙草さえ許してくれりゃ喜んで飼い馴らされるんですよ。分不相応の贅沢なんて言いませんからご安心を」

隣で空気が揺れて、其処に居る人が笑っているのだと解る。


まァ、こんなもんだ。
今も来年も何時でも、こんなもんで諾々と過ぎて行けばそれでいい。




覚醒。

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