ゆうべの事はあまり覚えていない。
覚えているのは、嫌い、大嫌い、と泣き喚いた事。どんな言葉で殴っても、貴方は『俺は好きだよ』としか返してくれなかった。『お前の言いなりにはならないよ』みたいな事も言っていた気がする。
俺は殴られたかった。詰られたかった。だけど貴方はそうしてくれなかった。嫌いだ嫌いだと叫ぶだけ、あんたが好きでどうしようも無いということを浮き立たせていった。
喉が引き攣って呼吸が浅くなる。赤子をあやすかのように、それでも存外強い力で、優しく抱き上げられた。
絶望の淵へ立たせたのも、背中をそっと押したのもこの人だというのに。その張本人に醜く縋って汚れた顔を押し付けてしとしとと涙を降らす俺は一体何なのだろう。
貴方の顔は最後まで分からなかった。