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り/ょ/う(東/海/オ/ン/エ/ア)
2021/06/16(水) 19:28
#地獄を至福に変えてくれ
5億年ボタンという概念を知っているだろうか。「〜だろうか」と言いたかった欲が強すぎるだけなので大抵の人はこれを知っていると踏んでこれを書き出しています。
それでも形式を保つ為に説明のターンを設けておくと、5億年ボタンとは少し前に流行った有名マンガの俗称で、今では「5億年ボタンがあったらどうする?」という気軽な思考テストに使われることが多い。
この問いをもう少し詳しく説明すると「何もない空間で5億年過ごす代わりに100万円がもらえるアルバイトを持ち掛けられた場合あなたはどうするか?」というものとなる。ボタンを押した瞬間に別次元の空間に意識が飛び、餓死がない代わりに睡眠も出来ない、もちろん第三者どころか全ての物が存在しない無の空間で5億年過ごすという地獄を見る事になるが、5億年経った瞬間に意識は現実へと戻り、その間の記憶は完全に消える。体感的にはボタンを押した瞬間に100万円を手にするわけだが、自分という存在は確かに地獄のような5億年を経験している……というような思考バランスになっている。
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いま、この文節に到達した自分と到達する前の自分が必ずしも連結した時空に存在していたとは限らない。1秒前の自分が1秒前に居る時点で、今の自分が5億年を経験している可能性は既にある。それを否定する事は誰にも出来ない。
と僕は思考しているので、僕は5億年ボタンをガンガン押す派である。いくら浅慮と言われようともこの先考えが変わる気は到底しない。どうやら悠久の時間軸に閉じ込められて苦しむ僕が何処かに居るらしいが、辛い思いまで記憶から消えてしまうなら今の僕には関係が無さすぎる。秒給100万円みたいなもんならば20秒分ぐらい一気に押して、東海オンエアで贅沢な世界旅行をしたい。
仮に"今の僕の精神"がその辛い思いをいっぺんに引き受ける事になったとしよう。控えめに言って面白すぎないか??二度とない史上最悪のはずれくじだ。最悪だなと言いながら5億年過ごすしかない。
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長々と前置きしたが、僕がこの話でしたかったのはここからだ。
この5億年ボタン、基本的には孤独と戦う前提の思考テストとなっているが、時に二人一緒に臨んでいる場合を見掛ける。その大抵が恋人同士で、途方もない時間の果てに狂ったり悟ったりした二人の精神が溶融し、なんか果てしなーい、エモーいとなるようなそんな話が多い(と個人的に思う)。
僕はこの状況を、本当の本当に羨ましいと思っている。
何を隠そう僕はこの状況になったらてつやとやりたい事が山ほどある人間なのだが、その一つに、『てつやとだけで使う新たな言語を作りたい』という大きな夢がある。
てつやと文字を作り、言葉を作る。そして僕たちだけの架空の歴史や架空の世界を創造して一生遊び続けたいと常日頃から夢見ている。僕らが二人して言ってみたいセリフは「それ1000年ぐらい前に考えんかったっけ?」だ。1000年かけて作った事柄を1000年かけて忘れ果て、また1000年かけて思い出す。愚かな創造主だ。
そしてその全てを無慈悲に無かった事にされ、現実に戻ったら「なんかあった?」「いいや?」などと言葉を交わしながら100万円を仲良く山分けする。きっと何ともなさすぎて「もっぺんくらい押しとく?」「押そ!」と浅慮も浅慮なやりとりをするに違いない。
せーの!で僕らは地獄に落ちる。
言葉を作るには僕らの一生は短すぎる。その夢を叶えるなら死ぬまでにてつやと神様を怒らせる悪戯を企てて、一緒に地獄に叩き落としてもらうのがきっと一番早いだろう。言葉作りより悪巧みの方が僕たちは圧倒的に得意だ。
5億年の牢獄へ落とされた暁には一言一句違わずに、同時にこう呟く。
──最悪だな。