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┗1878.PATH(11-15/41)

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15 :山田三郎
2020/09/25(金) 21:04



恋とはどんなものか、知っておられるあなた様方。
僕が胸に恋を抱いているかどうか見てください。


こんなフレーズで始まるオペラがある。
恥ずかしながら人生経験がまだ14年しかない僕は、まだ恋っていうファクターを理解できていない。
好き嫌いはハッキリしてる方なんだけどね、特に嫌いなものなんて数え切れないくらいあるからさ。ヨコハマへ向かうFライナーの中で隣り合った酒臭いオジサンが大声で仲間と話してるのとかもう最悪。生憎の雨で濡れたビニール傘の先端が僕のスニーカーの上にかざされてたら間違いなく世界を滅ぼしたくなるよね。一日一回は世界を滅ぼしてるよ、僕が魔王なら。一兄をノアの方舟に乗せた上で地上のすべてを洗い流す。舵取り役に特別に二郎も乗せてやる。そんな感じで全世界に対する崇高な反骨精神を日々温めながら過ごしてきたものだから、恋愛とか色恋とかそういうベクトルで他人を好きになった経験が極端に少ないんだ。

といっても流石にゼロじゃないよ。初恋は孤児院の職員だったお姉さん。背が高くて綺麗でしっかり者の頼れるお姉さんだったけど、仕事終わりに派手な色の髪をしたチャラいお兄さんと腕組んで帰るところを見てゲンメツした。
次は小学校の先生。ピアノを弾く指先が綺麗で、やっぱり背の高い頼れる先生だったんだけど、数学オリンピックを控えた勉強中に分からないところがあって偶々いたその先生に聞いたら当然ながら全然分からなくて、なんか冷めちゃった。分からなくて当然なんだけどね、音楽の先生だったから。
思えば歳上に惹かれてばっかりだけど、どれも叶ったことがないから経験のうちに入らないんだ。かといってクラスメイトたちの頭の悪そうな噂話に割って入って、やれ片思いだの両思いだの、ラインの既読がつかないから脈無しだの可愛いスタンプが送られてきたから脈有りだの、そういう話を真面目に聞く気にはならない。

ネガティブな話をしても嫌な顔せず聞いてくれるから脈アリ? 親身になって相談に乗ってくれるから脈アリ? この前、事あるごとにイヤミを言ってくる苦手な教師がいてなるべく顔を合わせたくないって愚痴った時にアイツがこんな解決策を提案してくれたんだよ。 「通勤に使う車の運転席に細工をし、アキレス腱に傷を負わせて当分の間入院させる」って。うん、凄く頼もしいアドバイスだったけど脈アリとか脈無しとか全然分かんない。巷の噂話なんて何も役に立たない。アイツめちゃくちゃ真顔だったからね。たぶん本気だからね。罠の作り方教わったからね。作らないけど。



ただ一つ分かるのは、自分より一回り以上年上の相手に恋をしてしまった僕は、実年齢より一回り以上大人にならないと同じ土俵にも立てないってこと。
アイツは僕を子供扱いしない。それがいつも嬉しいし心地良いし、今は少しだけプレッシャーだ。




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14 :山田三郎
2020/09/24(木) 20:06



台風の目の中は晴れてるらしい。
僕は経験ないけどね、クラスメイトが昼間そう話してたんだ。
台風の目、暴風雨の真ん中には何もないから晴れてるんだって。その子は九州にいた頃よく台風に遭って、急に晴れたと思って小躍りしながら外へ出たらすぐに暴風雨が戻ってきてびしょ濡れになったことがある、って騒いでたよ。
ほんと、毒島のベースキャンプって暴風雨に巻き込まれたら跡形もなく飛びそうだけど、そういう時はアイツどうしてるのかな。やっぱり同じチームメンバーの家に泊まったりしてるのかな。羨ましいな。うちにも部屋なら沢山あるのにズルい。


って、そんな取り止めのない話はどうでもいいんだ。

この日記を本棚に入れてくれてありがとう、ちゃんと把握してるよ。僕も本棚を作りたいんだけど、レイアウトに凝り出しちゃったらなかなか満足いく装丁にならなくて。同じテリトリーバトルの参加者は割と見てるし他も見てるしジャンルを知らなくても割と色々目を通してるんだよね、映画の話とかさ。僕は今まで常に善人の側にいたモーガン・フリーマンが「グランド・イリュージョン」で悪役を演じたのがすごく衝撃だったな。モーガンの一番の推しはやっぱり「ショーシャンクの空に」だけど。
こう見えて年相応に自己顕示欲の塊だから誰かに気に入られてるってのは満更じゃないよ。大人の皆さんと違って色気のある話は全然書いてないけど、気にかけられるのは嬉しいです。ふふん。


何かあれば連絡先からどうぞ。
日記の感想でも誤字の指摘でも内容に対する意見でも、レイアウト見づらいでも何でも喜んで読むよ。「1878」「PATH」で検索してるから私信でも反応できるし歓迎する。

ただし毒島へ宛てたメールは僕のところで握り潰します。僕以外には届かないから、そのつもりで。





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13 :山田三郎
2020/09/23(水) 12:45


(prev.→>>12

蹲って金庫を抱えてた僕のすぐ後ろから手が伸びてきて、その持ち手を掴んだ。
ほぼ背中に密着してきてたけど喜ぶ余裕もなかった。
一瞬で悟った通りのことを説明されたから、それを聞くのに必死だったんだ。


僕がテントの中を家探しして見つけることを想定し、同じ型のダミーの金庫を用意したこと。
すぐ見つかる場所じゃなくテントの奥、普段ならまず覗かない場所へ隠すことで信憑性を高めたこと。そして、さり気なくヒントを与えて僕に例の鍵金庫の鍵であることを印象付けたこと。
僕が好奇心からを持ち出して毒島の大事なものとやらの中身を確かめようとする事まで、全部見透かされてたってわけ。
後は僕が鍵を差し込んだのを見計らってダミー金庫を回収すれば、何も苦労せずを回収出来て、何も苦労せず毒島の勝ちってわけだ。


勝ち確どころか完敗だ、全部読まれてた。
まさか、このゲームを侮ってるとばかり思ってたコイツが、ここまで周到に用意していたなんて。
僕とのゲームにここまで本気を出すなんて、と考えて思い直した。そうだ、コイツはそういう奴だった。子供相手に手加減を一切しない恐ろしい奴だった。だから気に入ってるんだ、コイツのこと。



振り返ると相変わらず何を考えてるか分からない顔をした毒島がいた。
涼しい顔で金庫を抱えた毒島は、言葉もなく見上げる僕の目の前で刺さったままの鍵をあっさり抜き取って、手に入れた。




そこで鍵の違和感に気付いたらしい。
例の鍵と持ち手の形が微妙に違うことに気付いたんだと思う。ちょっと驚いたみたいに目を見開いた顔は初めて見た気がする。意外に幼くて可愛い。
その可愛い顔のまま戸惑うみたいにこっちを見たから、ちゃんと答えてやった。



合鍵を作っておいて正解だった。



毒島の計算されたダミー金庫と違って、僕の合鍵は何が起こるか分からないから一応念のため、っていうぼんやりした理由だったけど。
それでも最悪の事態は免れた。本物のは、鍵屋に持ち出した後はちゃんと僕の部屋のキャビネットに仕舞ってある。
僕だって手加減する気はないし、本気で挑んでるつもりだ。他でもないコイツとのゲームなんだから当然だ。
僕の返事を聞いて、詰めの部分で当てが外れたことを察した毒島は、また珍しい表情をした。
勝ち確のつもりが引き分けに戻ったのに、自分の目論見が外れたっていうのに、毒島は目を細めて、やたら嬉しそうに笑ったんだ。



たぶん僕も同じ表情をしてた。
背筋がゾクゾクした。
最高に興奮してた。
この瞬間がすごく好きだと思った。
子供相手に容赦ない、いや、子供相手に全力で相手をしてくれるコイツが、僕を対等な存在だと見做しているコイツが、堪らなく好きだと思った。

認めるしかない。
もう分かってる。
コイツとのゲームが好きだ。
コイツとの駆け引きが好きだ。
コイツのことが、誤魔化しようもなく、例えようもなく、好きで堪らないんだ。




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12 :山田三郎
2020/09/22(火) 19:16



探索4日目?って書くのも野暮だな、
長くなったら2ページに分けるし。っていうか長くなったから早速2ページに分けるけど途中で疲れたから続きはまた今度書くよ。そもそもアイツのとこに行かなくても通話はしてるから、探索しなくても交流してるんだよね。まぁいいか、雰囲気で。
雨が上がったから連休最終日の今日、十分な準備をして向かったんだ。アイツのところに。

今日はベースキャンプにちゃんと居たし、「道がぬかるんでいて大変だっただろう」って靴の泥を落としてくれたりアイツ特製のラベンダードリンクとやらを出してくれたり(この特製ドリンクは巷でも好評らしい)、何だか色々ともてなしてくれた。普段から分かってるけど、基本的にお客さんをもてなすのが好きなんだよな、コイツ。だから一文無しで迷い込んできたシブヤのギャンブラーとか道に迷ったシンジュクのサラリーマンなんかを招き入れたりするんだ。別に妬いてないけど。僕も招き入れられた側の人間だし。全然妬いてない。そもそも惚れてないから。
でもそのうち、水を汲みに行くって出て行ったんだよね。ここから一番近い沢まで結構あるって知ってるから、つまり、ベースキャンプはもぬけの殻になる時間ができたってこと。
分かる? やっぱり毒島は油断してるんだよ。僕に金庫が見つかったとは夢にも思ってないんだろう。千載一遇のチャンスってことだ。

アイツの背中が見えなくなった瞬間、テントの奥に戻って前回見つけた収納台の奥から小型の手提げ金庫を引っ張り出して、持ってきた荷物の中から鍵を取り出して。
これでアイツの大事なものとやらの中身が見られる。そう思って鍵を差し込んだ。予想通り奥まで入った。ビンゴだ。




そこまでだった。
奥まで差し込めた鍵が、回らなかった。



間違いなく金庫の鍵だけど、この金庫の鍵じゃないみたいだ。
同じ型の金庫の鍵だって、そこまで読みは当たっていたのに。
力任せにガチャガチャ回しても全然開く気配がない。
失敗だ。
すぐに悟った。
僕の見込みが外れた。
確信に近い予想が外れたんだ。


どうして?
次に疑問符が湧き上がってきた。
おかしい。こんな金庫を何個も持ってるなんて普通思わない。同じ型の手提げ金庫じゃ鍵の管理が大変だ。今みたいに間違えるから。
ならどうして?
よく似た金庫をもう一つ用意してあった、その理由は?
手のひらに汗が滲んだ。
頭がうまく回らない。


その上まずいことになった。
ガチャガチャ回し過ぎたせいか、鍵が抜けない。
まずい。
鍵が外れない。
力任せに引っ張っても駄目だ。
抜けない。
回収できない。
このままじゃ。



すぐ背後から毒島の声が聞こえた瞬間、賢い僕は全部悟った。
コイツは油断してたんじゃない。
僕を侮ってたわけでもない。

僕を泳がせていたんだ。


(next.→>>13




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11 :山田三郎
2020/09/20(日) 22:11



連休半ば、今日は生憎の雨。
つまり土砂崩れの危険を冒してはげ山を登るわけに行かないってこと。一兄に叱られるからね。
別に残念じゃないけどちょっと退屈だな、休みの間の宿題は初日に全部済ませちゃったし。別に残念じゃないけど本当なら泊まりに行く予定だったのにな。別に残念じゃないけど。

って時に役立つのが文明の利器、時代の進歩の象徴だ。
数コールで通話に出てくれるアイツは元々マメな性格なのか、それとも僕の為にそうしてくれてるのか読めない。とにかく、夕飯を終えて部屋に戻ってコールしたら少しして出てくれた。
頼んだら映像をオンにしてくれて、アイツのベースキャンプの中が映った。予想通り外の雨音が結構響いてて、大丈夫か?ってちょっとだけ心配になる。コイツ、台風が来た時とかどうしてるんだろう? いくら頑丈な軍用キャンプでも飛ぶよな? 飛ばないのか? まぁいいや。

会わない日にもたまに電話はしてる。
一兄や二郎にバレないようにイヤホンして、画面の向こうにいるアイツといろいろ他愛無い話をするんだ。いわゆる暇電ってやつだね。
毒島は手が空いてる時はちゃんと電話に出てくれるし、こっちが学校であったことや依頼の話(勿論当たり障りない範囲で)、つまり毒島自身に何も関係ない話をしても嫌な顔一つせず聞いてくれる。そして、自分のことも話してくれる。最近受けた取材の話とか、捕まえた獲物の話とか、またシブヤのギャンブラーがご飯を食べに来た話とか。
うん。こういうの、友人っぽくて良いだろ。友人ってこういうものだよな。多分。あんまり経験ないから分からないけど。きっと。
ただ画面の向こうにいる毒島が「狩猟の為の簡易的な罠を作っている」って見せてくれた罠が明らかに小動物を捕まえる系の簡易的な罠じゃなくて僕が引っ掛かったらどてっ腹に風穴が開く系の罠だった時は、流石に反応に困った。困ったけど(強いなぁ)ってグッと来ちゃったから今日の僕は本当におかしいと思う。惚れた弱味みたいでイヤだ。いや惚れてないけど。全然惚れてるとかじゃないけど。


色々話したけど、勿論ゲームの話もしたよ。スイッチで別の対戦ゲームをしながら。
毒島は「戦略を練っている」って言ってたけどそこまで本気じゃなさそうだった。だから、一応「あのって何の鍵なの?」ってチラッと聞いてみたんだ。ごくさり気なく、ね。探りを入れちゃダメってルールは無いし、毒島もあっさり答えてくれた。

金庫の鍵だ」って。

これはもう確定だ。内心ガッツポーズを決めてたらまたマンカラで負けた。また勝率が下がったけど取り敢えず良いんだ、大局で勝ってさえいれば個々のゲームの勝敗なんて大したことじゃない。
雨が上がったら、またこっそり毒島のベースキャンプを訪れようと思う。当人が油断してる間にね。





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12 :山田三郎
2020/09/22(火) 19:16



探索4日目?って書くのも野暮だな、
長くなったら2ページに分けるし。っていうか長くなったから早速2ページに分けるけど途中で疲れたから続きはまた今度書くよ。そもそもアイツのとこに行かなくても通話はしてるから、探索しなくても交流してるんだよね。まぁいいか、雰囲気で。
雨が上がったから連休最終日の今日、十分な準備をして向かったんだ。アイツのところに。

今日はベースキャンプにちゃんと居たし、「道がぬかるんでいて大変だっただろう」って靴の泥を落としてくれたりアイツ特製のラベンダードリンクとやらを出してくれたり(この特製ドリンクは巷でも好評らしい)、何だか色々ともてなしてくれた。普段から分かってるけど、基本的にお客さんをもてなすのが好きなんだよな、コイツ。だから一文無しで迷い込んできたシブヤのギャンブラーとか道に迷ったシンジュクのサラリーマンなんかを招き入れたりするんだ。別に妬いてないけど。僕も招き入れられた側の人間だし。全然妬いてない。そもそも惚れてないから。
でもそのうち、水を汲みに行くって出て行ったんだよね。ここから一番近い沢まで結構あるって知ってるから、つまり、ベースキャンプはもぬけの殻になる時間ができたってこと。
分かる? やっぱり毒島は油断してるんだよ。僕に金庫が見つかったとは夢にも思ってないんだろう。千載一遇のチャンスってことだ。

アイツの背中が見えなくなった瞬間、テントの奥に戻って前回見つけた収納台の奥から小型の手提げ金庫を引っ張り出して、持ってきた荷物の中から鍵を取り出して。
これでアイツの大事なものとやらの中身が見られる。そう思って鍵を差し込んだ。予想通り奥まで入った。ビンゴだ。




そこまでだった。
奥まで差し込めた鍵が、回らなかった。



間違いなく金庫の鍵だけど、この金庫の鍵じゃないみたいだ。
同じ型の金庫の鍵だって、そこまで読みは当たっていたのに。
力任せにガチャガチャ回しても全然開く気配がない。
失敗だ。
すぐに悟った。
僕の見込みが外れた。
確信に近い予想が外れたんだ。


どうして?
次に疑問符が湧き上がってきた。
おかしい。こんな金庫を何個も持ってるなんて普通思わない。同じ型の手提げ金庫じゃ鍵の管理が大変だ。今みたいに間違えるから。
ならどうして?
よく似た金庫をもう一つ用意してあった、その理由は?
手のひらに汗が滲んだ。
頭がうまく回らない。


その上まずいことになった。
ガチャガチャ回し過ぎたせいか、鍵が抜けない。
まずい。
鍵が外れない。
力任せに引っ張っても駄目だ。
抜けない。
回収できない。
このままじゃ。



すぐ背後から毒島の声が聞こえた瞬間、賢い僕は全部悟った。
コイツは油断してたんじゃない。
僕を侮ってたわけでもない。

僕を泳がせていたんだ。


(next.→>>13




13 :山田三郎
2020/09/23(水) 12:45


(prev.→>>12

蹲って金庫を抱えてた僕のすぐ後ろから手が伸びてきて、その持ち手を掴んだ。
ほぼ背中に密着してきてたけど喜ぶ余裕もなかった。
一瞬で悟った通りのことを説明されたから、それを聞くのに必死だったんだ。


僕がテントの中を家探しして見つけることを想定し、同じ型のダミーの金庫を用意したこと。
すぐ見つかる場所じゃなくテントの奥、普段ならまず覗かない場所へ隠すことで信憑性を高めたこと。そして、さり気なくヒントを与えて僕に例の鍵金庫の鍵であることを印象付けたこと。
僕が好奇心からを持ち出して毒島の大事なものとやらの中身を確かめようとする事まで、全部見透かされてたってわけ。
後は僕が鍵を差し込んだのを見計らってダミー金庫を回収すれば、何も苦労せずを回収出来て、何も苦労せず毒島の勝ちってわけだ。


勝ち確どころか完敗だ、全部読まれてた。
まさか、このゲームを侮ってるとばかり思ってたコイツが、ここまで周到に用意していたなんて。
僕とのゲームにここまで本気を出すなんて、と考えて思い直した。そうだ、コイツはそういう奴だった。子供相手に手加減を一切しない恐ろしい奴だった。だから気に入ってるんだ、コイツのこと。



振り返ると相変わらず何を考えてるか分からない顔をした毒島がいた。
涼しい顔で金庫を抱えた毒島は、言葉もなく見上げる僕の目の前で刺さったままの鍵をあっさり抜き取って、手に入れた。




そこで鍵の違和感に気付いたらしい。
例の鍵と持ち手の形が微妙に違うことに気付いたんだと思う。ちょっと驚いたみたいに目を見開いた顔は初めて見た気がする。意外に幼くて可愛い。
その可愛い顔のまま戸惑うみたいにこっちを見たから、ちゃんと答えてやった。



合鍵を作っておいて正解だった。



毒島の計算されたダミー金庫と違って、僕の合鍵は何が起こるか分からないから一応念のため、っていうぼんやりした理由だったけど。
それでも最悪の事態は免れた。本物のは、鍵屋に持ち出した後はちゃんと僕の部屋のキャビネットに仕舞ってある。
僕だって手加減する気はないし、本気で挑んでるつもりだ。他でもないコイツとのゲームなんだから当然だ。
僕の返事を聞いて、詰めの部分で当てが外れたことを察した毒島は、また珍しい表情をした。
勝ち確のつもりが引き分けに戻ったのに、自分の目論見が外れたっていうのに、毒島は目を細めて、やたら嬉しそうに笑ったんだ。



たぶん僕も同じ表情をしてた。
背筋がゾクゾクした。
最高に興奮してた。
この瞬間がすごく好きだと思った。
子供相手に容赦ない、いや、子供相手に全力で相手をしてくれるコイツが、僕を対等な存在だと見做しているコイツが、堪らなく好きだと思った。

認めるしかない。
もう分かってる。
コイツとのゲームが好きだ。
コイツとの駆け引きが好きだ。
コイツのことが、誤魔化しようもなく、例えようもなく、好きで堪らないんだ。