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>>12)
蹲って
金庫を抱えてた僕のすぐ後ろから手が伸びてきて、その持ち手を掴んだ。
ほぼ背中に密着してきてたけど喜ぶ余裕もなかった。
一瞬で悟った通りのことを説明されたから、それを聞くのに必死だったんだ。
僕がテントの中を家探しして見つけることを想定し、同じ型の
ダミーの金庫を用意したこと。
すぐ見つかる場所じゃなくテントの奥、普段ならまず覗かない場所へ隠すことで信憑性を高めたこと。そして、さり気なくヒントを与えて僕に
例の鍵が
金庫の鍵であることを印象付けたこと。
僕が好奇心から
鍵を持ち出して毒島の大事なものとやらの中身を確かめようとする事まで、全部見透かされてたってわけ。
後は僕が鍵を差し込んだのを見計らって
ダミー金庫を回収すれば、何も苦労せず
鍵を回収出来て、何も苦労せず毒島の勝ちってわけだ。
勝ち確どころか完敗だ、全部読まれてた。
まさか、このゲームを侮ってるとばかり思ってたコイツが、ここまで周到に用意していたなんて。
僕とのゲームにここまで本気を出すなんて、と考えて思い直した。そうだ、コイツはそういう奴だった。子供相手に手加減を一切しない恐ろしい奴だった。だから気に入ってるんだ、コイツのこと。
振り返ると相変わらず何を考えてるか分からない顔をした毒島がいた。
涼しい顔で
金庫を抱えた毒島は、言葉もなく見上げる僕の目の前で刺さったままの鍵をあっさり抜き取って、手に入れた。
そこで鍵の違和感に気付いたらしい。
例の鍵と持ち手の形が微妙に違うことに気付いたんだと思う。ちょっと驚いたみたいに目を見開いた顔は初めて見た気がする。意外に幼くて可愛い。
その可愛い顔のまま戸惑うみたいにこっちを見たから、ちゃんと答えてやった。
合鍵を作っておいて正解だった。毒島の計算された
ダミー金庫と違って、僕の合鍵は何が起こるか分からないから一応念のため、っていうぼんやりした理由だったけど。
それでも最悪の事態は免れた。本物の
鍵は、鍵屋に持ち出した後はちゃんと僕の部屋のキャビネットに仕舞ってある。
僕だって手加減する気はないし、本気で挑んでるつもりだ。他でもないコイツとのゲームなんだから当然だ。
僕の返事を聞いて、詰めの部分で当てが外れたことを察した毒島は、また珍しい表情をした。
勝ち確のつもりが引き分けに戻ったのに、自分の目論見が外れたっていうのに、毒島は目を細めて、やたら嬉しそうに笑ったんだ。
たぶん僕も同じ表情をしてた。
背筋がゾクゾクした。
最高に興奮してた。
この瞬間がすごく好きだと思った。
子供相手に容赦ない、いや、子供相手に全力で相手をしてくれるコイツが、僕を対等な存在だと見做しているコイツが、堪らなく好きだと思った。
認めるしかない。
もう分かってる。
コイツとのゲームが好きだ。
コイツとの駆け引きが好きだ。
コイツのことが、誤魔化しようもなく、例えようもなく、好きで堪らないんだ。