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20 :山田三郎
2020/10/07(水) 19:07



リプレイ:ゲスイット

今夜紹介するのはちょっとしたトランプゲーム。
ルールは簡単、使うのは絵柄1種類だけの13枚。今回はハートの1〜13を使った。
手順は以下の通り。

① 13枚のカードをシャッフルし、互いに6枚ずつ配る。
② 残った1枚を伏せて場に置く。
③ 交互に「はい/いいえ」で答えられる質問をし、伏せたカードが何か先に当てた方の勝ち。


あと、

・質問できる回数は3回まで。
・質問には正直に答えなければならない。
・場のカードを当てられるタイミングは、相手の質問に答えた後のみ。

って補足も付けておくね。

トランプの「ゲスイット」ってゲームを少しだけカスタマイズしたもの。昨晩毒島と遊んで盛り上がったから、リプレイに書き起こしておこうと思って。
スイッチも使うしスマホのゲームもやるけど、やっぱり膝を突き合わせて実際にカードを使うのが一番楽しいよね。目の前に相手がいるから、微妙な表情の動きとか、目線とか、色々観察できる。……観察って名目で堂々と見つめていられるし。
頭を使って戦略を考えてる時の毒島は、普段以上に真剣な顔してて、その。魅力的。なんだよね。色々考えを巡らせながら、どうやって僕を打ち負かそうか思案してる毒島を見るのは好きなんだ。なんて言うか……ゾクゾクする。そうして張り巡らされた戦略を覆す瞬間が一番好き。って、ちょっと過激かな?
さあ、前置きはこの辺りで終わりにしよう。


───────────────


それじゃゲーム開始だ。毒島が慣れた手つきでカードを切って、公平に6枚ずつ配ってくれた。
僕の持ち札は

2,4,5,8,9,12

だよ。
つまり、場に伏せられたカードはこれ以外の7枚のどれか。ここまではOK?
それじゃ、今から毒島に「はい/いいえ」で答えられる質問をしていこう。


<僕から毒島への質問①>
お前の手持ちに、8以上のカードは3枚ある?
→はい

と、こんな感じで相手に質問をしていくんだ。
8以上のカードで僕が持っていないのは3枚。その全部を毒島が持ってるってことだから、向こうの手持ちはこんな感じになる。

毒島:◯,◯,◯,10,11,13

ちなみに8以上にしたのは13枚のちょうど真ん中だから、かな。10以上、とか2以上、とか変に偏らせるとアテが外れた時に当てづらくなるからね。
なかなか頭を使うだろ?

<毒島から僕への質問①>
貴殿の手持ちに、7以下のカードは4枚あるか?
→いいえ

次は相手が質問する番。
これは僕からの質問①と同じ想定だね、毒島の手持ちに7以下のカードが3枚あるんだから自然な流れだ。
ここから毒島は僕の手持ちをこんな風に予想するだろう。

三郎:◯,◯,◯,8,9,12


<僕から毒島への質問②>
4以下のカードを2枚持ってる?
→いいえ

ふふん、順調だ。僕の質問チョイスが冴え渡ってるだろ?
何故かって? 4以下のカードで向こうが持ってる可能性があるのは1と3。けど「2枚は持っていない」となると、つまり毒島の手持ちはこう。

毒島:1か3,6,7,10,11,13

質問2つで二者択一に絞れたのは大きなアドバンテージだ。
あとは次の質問で1か3か分かれば僕の勝ち。無論、次の質問で毒島が僕の手持ちをピタリと当てられたら別だけど。


<毒島から僕への質問②>
1、もしくは4のカードを所持しているか?
→はい


──この時点で僕は勝ちを確信した。

(next.→>>21




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19 :山田三郎
2020/10/01(木) 13:18



禁止事項②:同ディビジョンメンバーの協力、助言

これを盛り込んだのには確固とした理由がある。
一つは、あんなものを預けたと素行の悪いMTCメンバーに知れたら、確実に悪用される。火を見るより明らかなレベルで悪用される。一瞬で残高をゼロにされる。もう100%明らかだ。
そしてもう一つは、正直残高を根こそぎ奪われるより深刻な問題だ。お金はまた増やせるけどこっちは本気で洒落にならない。


一兄に叱られる。


こんなゲームをしてると一兄に知られたら確実に叱られる。それはもう烈火の如く怒るに決まってる。
理由なんてもう数え切れないくらいある。まず相手が因縁浅からぬMTCのメンバーであること。次に相手のとても大事なものを遊び半分で預かっていること。最も肝心なのは、結構な額の入った通帳を不用心に渡していること。
一兄がどんなに苦労して僕ら兄弟を孤児院から引き取るための資金を稼いでたか知ってる。正確に言うと当時の僕は知らなかったけど、今の僕は痛いほど分かってる。そんな一兄にゲームの内容なんて知られたら叱られるどころか幻滅される。悲しまれる。分かってる。遊び半分で大事なお金の入ったものを他人に預ける浅はかな奴だとガッカリされる。

僕はそれを否定できない。本当に遊び半分でゲームを続けてる訳じゃないよ、>>3とか>>5とか>>7あたりに書いてる通り、このゲームを始めたのは僕なりの確固とした理由がある。
でもそれを一兄にうまく説明できない。僕があの男、毒島にどれだけ本気になってるかを、とても説明できる自信がないんだ。


だって、アイツに本気で惚れてるなんて、どうしたら説明できる?


全部きちんと説明するのはハッキリ言って無理だ。
だから、「最近元気ねぇけど何かあったのか?」って優しく声を掛けてくれた一兄に、僕は色々端折って隠して要点だけを伝えることにしたんだ。
『年上の人を好きになった』って。



一兄はビックリした顔してちょっと照れ臭そうに目を細めて、そうかって当たり障りのない返事をしてくれて、その場は何となく適当に流れたんだけど、その夜僕がお風呂に入ってる時に一兄と二郎が極秘の家族会議をしてるのが分かった。
だらしない二郎のせいでリビングのドアがちょっとだけ開いてたから、聞こえたんだよね。
正直もう恥ずかしくて死にたい。穴があったら入りたい。2、3週間くらい穴の中で過ごしたい。かなり本気で。




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18 :山田三郎
2020/09/29(火) 22:13



少し大人びたと、クラスメイトに指摘された。
何をもってそう称したのか尋ねたら簡単なことで、結論から言うと最近よく窓の外をぼんやり見てるのが原因みたいだ。
どこか遠くへ思いを馳せてる様子が、何だか大人びて見えるんだってさ。憂いを帯びた眼差し。女子の言うことは本当に意味分かんない。うすらぼんやり遠くを眺めてるだけで大人になれるなら苦労しないんだよ、全く。

週末は雨が降ってたせいで会えてないから、今日あたり様子を見に行こうかな、とか今は何してるのかな、とか考えながら青空を眺めてただけ。
ついでに言うと引き出しの中でライン送ったりしてた。既読がつかないから所用で外してるんだろうけど、数分おきにスマホを覗いちゃうから文明の利器ってやつは時に鬱陶しい。スマホさえ無ければ連絡手段もないから諦めもついただろうけど、いつでも連絡が取れる手段が手元にあるとつい気になって覗いちゃう。

この気持ちをアイツと共有できる日は来るんだろうか。
こんな擽ったい気持ちじゃなくて、大人はもっと別の形で恋を自覚するんだろうか。大人びてるだけで大人じゃない僕には絶対的に経験が不足している。
次の一手をどうすべきか、まだ決まらない。手遊びに始めたゲームだって中途半端なままだ。毒島に預けたアレ、返してもらわないと現実問題困るから何らかの形で決着をつけなきゃいけないのに。いや、何らかの形っていうか僕の勝ちで決着をつけるべきなんだけど。

そんな取り止めのないことをぼんやり考えながら、傍からは大人びたように見えるぼんやりっぷりで家に帰った。
ちょうど事務所には一兄しかいなくて、適当に挨拶を済ませて鞄だけ下ろしてまた出掛けようかな、なんて考えてたところ。


「最近元気ねぇけど、何かあったのか?」なんて聞かれるんだからやっぱり一兄には敵わない。僕の大人びた憂いの眼差しは、本物の大人から見ればただ元気がないだけみたいだ。






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17 :山田三郎
2020/09/29(火) 03:32



真夜中に目が覚めて、ふと会いたくなる時がある。今、まさにそう。
連絡すれば起きてくれるかも知れない。でもこんな時間に起こすわけにも行かないジレンマ。一言だけでも連絡してみようかな。いや、やっぱやめておこうかな。



────
追記。別に下ネタが好きなわけじゃないからな!先日ちょっとバラエティ番組で血迷った回答したけど別に下ネタが好きなわけじゃないからな!ちょっと気になっただけで別にそういう訳じゃ……いや本棚から外さない時点で肯定してるのと同じか……もう黙ろう……その、楽しく読んでます。どうも。





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16 :山田三郎
2020/09/27(日) 10:30


本棚/順不同


僕の個人的な本棚だから挨拶・入れ返しの気遣いは要らないよ。不都合があれば連絡を下さい。



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WHOCARES.JP
3 :山田三郎
2020/09/13(日) 18:24



ゲームを持ち掛けたのは当然僕だ。
これでも結構考えたんだよ。一番大事なものって限定するとお互いヒプノシスマイクを預けることになるし、暴力有りにすると勝ち目がないし。まぁ、相手が本気で僕相手に暴力を振るうとは思ってないけど。
多少なりとも渋られるかと思ったけど、向こうの反応は案外あっさりしてて、あっさり承諾した上にあっさり大事なものを手渡してくれた。


これ、何の鍵だろうな?
車の鍵じゃなさそうなのは分かるけど、家の鍵か、もしくは大金の詰まった金庫の鍵なのかも知れない。とにかく、
毒島が僕に預けてきたのは何かの鍵

で、僕からも相応の大事なものを渡さないとゲームが成り立たないだろ? だから、今までに株取引その他でコツコツ貯めたお小遣いの殆どを突っ込んでる通帳を預けることにした。億単位の預金があるやつ。あ、一兄や二郎には内緒のやつだよ。
ネットバンキングが主だから普段は全く使わないけど、失くして悪用されたら活動資金が一瞬で消えるからね。日常生活で困ることがなくて、でも奪われるとクソほど困る。そういうものを選んだつもり。
僕が毒島に差し出したのは、預金通帳

お互いにアイテムを受け取ってから一週間のインターバル。その間に絶対に見つからない場所へ隠す。
準備が整ったから、ようやくゲームスタートだ。
あとは毒島のベースキャンプを訪れて、テントの中をくまなく探して、預けた通帳を見つけたら僕の勝ち。

もちろん毒島が先に僕の隠したアイツの鍵を見つけたら負けだけど、まぁ、負ける気はしてないよ。
鍵は今のところ僕の自室のキャビネットの一番下に仕舞ってあって、学校に行ってる間は自室のカギをこじ開けない限り見つけられない。そんなことしたら、流石に一兄や近所の知り合いに見つかるだろうからね。
つまり、僕にとって絶対的に有利なゲームなんだ。


なんでこんなゲームを仕掛けたかって?
決まってるだろ? 正当な理由をつけて、ほら、その。アイツのところに通えるからだよ。
何の経緯もないのに家から遠く離れたはげ山の奥地を何度も訪れるなんて不審者以外の何者でもないだろ? 最悪一兄や二郎に見つかっても言い訳が出来る。敵対している以上体裁も悪いし何よりアイツにどう思われるか分からない、僕は人より頭の回転が早い分凡人には意識の及ばないところまで配慮して的確に行動出来るんだよだからアイツに理由もなく会いに行ってるなんて周りに知られる訳にはいかないし当人に警戒されたら元も子もないしそもそも会いに行かなきゃ良いだろって話なんだけどそれだと都合が悪いっていうか神童には神童なりの目論見というか考えがあって通いたくなる衝動を抑えられないというかでも別に理由をこじつけてまで会いたいとか別にそういうわけじゃなくて別にアイツに興味なんて全然ないけど行動とか認知とか生活様式とかに多少学術的な興味があるっていうかだから別に本当に、


テントに着いたから続きはまた後日ね。
そういう訳だから、僕の勝ちを見守ってて。




5 :山田三郎
2020/09/14(月) 21:50



あの男が気になり始めたきっかけは、
そんなに大したことじゃないし別に凄く気になってる訳でもないっていうか別に気にしてはいないんだけど、まぁ、そうだな。他の有象無象の足りない大人たちよりはマシだと思える部分が多い。
一番気に入ってるところは、そうだな。
アイツは僕のことを一切子供扱いしないんだ。

バトルで手加減しないのは勿論、子供だからって教育に良くない話題を避けたりはぐらかしたりしない。
夕食の手伝いだって甘やかさないし、成人男性と同じだけの体力が備わっているものとして扱ってくる。言葉遣いを僕に対する時と同じディビジョンの奴らに対する時とで変えない。わざとらしく分かりやすい単語にしたり、「子供には分からない」ってつま弾きにしたりしない。
僕を僕として見てる。だから、他の大人とは違うと思った。


ただ、一兄とは意見が違う。
この世で最も崇高にして至上なる存在の我らが一兄は、僕らとチームを組むようになってから「子供を子供扱いしねぇ奴が一番恐ろしい、十分気を付けろ」ってキツく言い含めるようになった。
でもこの教えには納得いってない。今まで僕らは、僕らを子供だと侮って好き勝手してきた馬鹿な大人をたくさん見てきた。例えばサンセットビルの展望階でね。
だから、僕は僕の価値観を信じる。一兄や二郎ほど人を見る目は無いかも知れないけど、嗅覚はあるつもりだよ。
勿論、忠告だけは参考として受け取っておくけど。


それに、
アイツ、偶にさ。
ごく偶になんだけど、僕がそっちを見るとすぐ顔を逸らすから他の誰も気付いてないと思うんだけど、すごくこわい目をしてる時があるんだ。
例えるなら、そう、獲物を見る時の目。
僕を子供や大人の分類に当て嵌めてるんじゃない。たぶん、アイツは。





7 :山田三郎
2020/09/16(水) 20:43



3日目に入る前にまず話しておかないといけないと思って。
僕らがどういった経緯で親睦を深めたか。あるいは、ここまで近しい距離で接することを許し始めたか。

勿論事の始まりはあの鮮烈なテリトリーバトルの準決勝戦だけど、同じラップバトルの参加者同士その後にも会う機会は多々あった。
その中でも距離を縮めたきっかけは、これはラップバトルとは何の関係もないんだけど、萬屋に来た依頼の一環で南半球、主にオーストラリアもしくはヨコハマの森に棲息しているエミューを捕まえて捌いた後の鶏肉を手に入れるってミッションから………オーケイ、うん。何を言ってるか分からないって顔をする気持ちも分かるよ。その気持ちは最もだ。僕も何を言ってるか分からない。うん、他に説明のしようがないから聞き流して。エミューはどうでも良いんだよ。


アイツのベースキャンプが予想外に居心地良かったから足繁く通うようになって、色々話すようになって、アイツもそれを拒まなかった。
僕が何を聞いても丁寧に答えてくれたし、何を頼んでも出来る範囲で応じてくれた。

平日の昼間、特に理由もなく無性に、急に学校にいるのが嫌になって飛び出したことがある。その時たまたま思い浮かんだのがアイツのベースキャンプで、その場でラインしたら数分で返事が来たから『泊まりに行く』って連絡してそのまま押し掛けたりした。
なんていうか、分かるかな。急に今いる場所から逃げ出したくなる気持ち。全部忘れて無心になりたい気持ち、っていうか。そういうのを説明するのも面倒だったんだけど、毒島は特に何も聞かずに夕飯を用意してくれたし、僕用の寝袋まで用意してくれたし、あとゲームで遊んでくれた。
そうだな、うん。そういうところが何ていうか、ほら……その。居心地良くて。好きだなって……いや、別にそういうアレじゃないけどさ。本当に別にそういうアレじゃないけど。

それから、もっとアイツのことを知りたくなって前より頻繁に来るようになったし、泊まる回数も増えた。
アイツはいつも歓迎してくれるし僕の好きにさせてくれる。スイッチも一台渡したから手が空いてる時はゲームの対戦相手にもなってくれる。(マンカラの勝率が僕より高いのが気に食わない)
要するに良い友人だ。……多分。友達の家に泊まったこと、ほとんど無いから、多少推測だけど。友人ってこんな感じの関係だと思う。多分。
だから、今回のゲームを持ち掛けた時も毒島はいつも通り応じてくれたし、これも友人の遊びの延長だと思ってるだろう。多分ね。


僕がここまで本気だってアイツは知らない。きっと。



21 :山田三郎
2020/10/08(木) 12:35


(prev.→>>20

ゲームで勝ちを確信したときの嬉しさってのは何物にも代えがたい。だって分かるだろ? 毒島の手札はこれで確定だ。
といっても文字だけじゃ伝わらないだろうから順を追って説明するよ、ちゃんと付いてきてね。

毒島の手札は>>20で説明した2通りしかない。
まず1,6,7,10,11,13の場合、さっきの質問に「はい」って僕が答えたから向こうは僕の手持ちをこう予想するだろう。

三郎:◯,4,5,8,9,12

僕の手持ちに5があることは、一つ前の僕からの質問②で推察できるからね。長くなるから折り畳むよ、興味あったら覗く程度でいい。
説明
僕の手持ちに5が無いとすると、
三郎:1,2,4,8,9,12
って事になる。
これじゃ、僕からの質問②「4以下のカードは2枚ある?」って聞いたところで毒島の答えは「いいえ」以外に無いんだ。無意味だろ?
だから、僕からの質問②が出た時点で僕の手元には5があるって推測出来るんだよ。

ってことで、この場合は次の質問で残りの一枚を当てられれば毒島の勝ちが見える。

でも毒島の手持ちが3,6,7,10,11,13の場合、向こうは僕の手持ちが特定できない。
依然として、

三郎:◯,◯,5,8,9,12

から絞り込むことが出来ないんだ。
だって僕は1も4も持ってるかも知れないし、1だけ、または4だけ持ってるかも知れないんだから。
3回しか質問出来ないのに撹乱目的で意味のない質問をしてくるとは考えにくい。その間に僕が正解しちゃったら終わりだからね。

つまり、この時点で毒島の手持ちはすんなり予測できるんだよ。

毒島:1,6,7,10,11,13
場のカード:3

これで決まり。

と、こんな具合で答えを確信したけど、ルール通り僕が場のカードを当てられるのは「相手の質問に答えた直後」だけ。
だから、僕は次に何か質問をしなきゃいけない。しかも、相手に場のカードを悟らせないような質問を、だ。
それで、こんな質問にしてみた。


<僕から毒島への質問③>
このゲームで僕が勝ったら、あの、手を握ってもいい?

→勿論。
そう答えてきたから、もう、嬉しくてちょっとソワソワした。
何で手を?って聞かれたら、まあ、なんて言うか別にハッキリした理由はほんと別に無いんだけど、その辺はほら、別に適当にそれらしい理由を付ければいい。指先が荒れてるとか傷があるとか埃がついてるとか。別にそういうのは後回しでいいんだよ。
とにかく勝つことしか考えてなかった。僕は、それはもう意気揚々と宣言して場のカードを巡ったんだ。

僕の答え:毒島の手持ちは1,6,7,10,11,13。
場のカードは3。


そう言ってめくった場のカードは何だったと思う?



まさかの、だったんだよ。


(next.→>>22





20 :山田三郎
2020/10/07(水) 19:07



リプレイ:ゲスイット

今夜紹介するのはちょっとしたトランプゲーム。
ルールは簡単、使うのは絵柄1種類だけの13枚。今回はハートの1〜13を使った。
手順は以下の通り。

① 13枚のカードをシャッフルし、互いに6枚ずつ配る。
② 残った1枚を伏せて場に置く。
③ 交互に「はい/いいえ」で答えられる質問をし、伏せたカードが何か先に当てた方の勝ち。


あと、

・質問できる回数は3回まで。
・質問には正直に答えなければならない。
・場のカードを当てられるタイミングは、相手の質問に答えた後のみ。

って補足も付けておくね。

トランプの「ゲスイット」ってゲームを少しだけカスタマイズしたもの。昨晩毒島と遊んで盛り上がったから、リプレイに書き起こしておこうと思って。
スイッチも使うしスマホのゲームもやるけど、やっぱり膝を突き合わせて実際にカードを使うのが一番楽しいよね。目の前に相手がいるから、微妙な表情の動きとか、目線とか、色々観察できる。……観察って名目で堂々と見つめていられるし。
頭を使って戦略を考えてる時の毒島は、普段以上に真剣な顔してて、その。魅力的。なんだよね。色々考えを巡らせながら、どうやって僕を打ち負かそうか思案してる毒島を見るのは好きなんだ。なんて言うか……ゾクゾクする。そうして張り巡らされた戦略を覆す瞬間が一番好き。って、ちょっと過激かな?
さあ、前置きはこの辺りで終わりにしよう。


───────────────


それじゃゲーム開始だ。毒島が慣れた手つきでカードを切って、公平に6枚ずつ配ってくれた。
僕の持ち札は

2,4,5,8,9,12

だよ。
つまり、場に伏せられたカードはこれ以外の7枚のどれか。ここまではOK?
それじゃ、今から毒島に「はい/いいえ」で答えられる質問をしていこう。


<僕から毒島への質問①>
お前の手持ちに、8以上のカードは3枚ある?
→はい

と、こんな感じで相手に質問をしていくんだ。
8以上のカードで僕が持っていないのは3枚。その全部を毒島が持ってるってことだから、向こうの手持ちはこんな感じになる。

毒島:◯,◯,◯,10,11,13

ちなみに8以上にしたのは13枚のちょうど真ん中だから、かな。10以上、とか2以上、とか変に偏らせるとアテが外れた時に当てづらくなるからね。
なかなか頭を使うだろ?

<毒島から僕への質問①>
貴殿の手持ちに、7以下のカードは4枚あるか?
→いいえ

次は相手が質問する番。
これは僕からの質問①と同じ想定だね、毒島の手持ちに7以下のカードが3枚あるんだから自然な流れだ。
ここから毒島は僕の手持ちをこんな風に予想するだろう。

三郎:◯,◯,◯,8,9,12


<僕から毒島への質問②>
4以下のカードを2枚持ってる?
→いいえ

ふふん、順調だ。僕の質問チョイスが冴え渡ってるだろ?
何故かって? 4以下のカードで向こうが持ってる可能性があるのは1と3。けど「2枚は持っていない」となると、つまり毒島の手持ちはこう。

毒島:1か3,6,7,10,11,13

質問2つで二者択一に絞れたのは大きなアドバンテージだ。
あとは次の質問で1か3か分かれば僕の勝ち。無論、次の質問で毒島が僕の手持ちをピタリと当てられたら別だけど。


<毒島から僕への質問②>
1、もしくは4のカードを所持しているか?
→はい


──この時点で僕は勝ちを確信した。

(next.→>>21




22 :山田三郎
2020/10/09(金) 21:37


(prev.→>>21

僕の推理は完璧だったはずだ。
少しの間、訳が分からなくてきょとんとしちゃった。なんで場のカードがなのか、本気で分からなかったから。
でも何度見てもなんだよ。仕方ないからどうして騙せたのか聞いたら、毒島はあっさりこう説明してくれた。
書いたら長くなったら折り畳もう。……別に折り畳み方を知ったから嬉しくなって多用してるわけじゃないぞ。

折り畳んだ
────────────
質問②の前に毒島が予想してた僕のカードは以下の通り。

三郎:◯,◯,5,8,9,12
この◯には1,2,4のどれかが入る。

1か4を持ってるか?って聞いたところで、僕が「いいえ」と答える選択肢はない。一見してこの質問②は完全に無意味だ。
でも毒島は、僕が賢いことをよく知ってた。

僕の手持ちが1,2,5,8,9,12、もしくは2,4,5,8,9,12だったら、>>21で僕が考えたように「無意味な質問はしないはずだ」と推理して我が物顔で場のカードは3だと宣言して自滅するだろう。
僕の手持ちが1,4,5,8,9,12だったら、毒島は依然として何の情報も得られないどころか僕にだって何もメリットがない。
おかしいだろ? 理由が全然分からなくて聞いたんだ。そしたら毒島の奴、こう言ったんだよ。

意図を掴みかねた僕が怪訝そうに顔をしかめる。
その表情を見極めるつもりだった、って。

────────────


こんなの完敗だ。勝てるはずがない。僕のこと把握し過ぎだろ、コイツ。
全部見抜かれてた。おかしい、負けたのに悔しい以上に嬉しいなんて本当に間違ってる。
何かもうよく分からなくなってむずむずしてたら、あと一歩だったな、って頭をぽんぽんされた。
この子供扱いは嫌いじゃない。コイツが本気で僕を頭から子供扱いする奴じゃないことは知ってる。だから好きだ。
手を握れなかったのは、まあ、その、少しだけ、残念だけど。嫌いじゃない。
トランプゲーム、楽しかったし。目一杯頭を使ったし。負けたけど。

僕がむくれてたら、毒島は余裕の表情でこっちに片手を差し出してきて「握るか?」って聞いてきた。
勿論振り払ったよ、勝ったらって約束だったし敵に情けをかけられるのはみっともない。僕にだってプライドがあるんだ。でもそうしたら子供っぽいって呆れられたから、もう何が正解なのか分からなくなった。

その後もう一度差し出されたから、今度は素直に握ることにしたんだ。
何ていうか、この甘やかし方の絶妙なバランスが好きで堪らない。さっきまで本気で心理戦繰り広げてたくせに、このタイミングで子供みたいに甘やかしてくるのが何ていうか、うん、好きだ。こういうところが好き。

……何の話だっけ? トランプゲームのリプレイの話だったよね? という訳で、機会があったら是非どうぞ。